やがてその場が落ち着きを取り戻し、ようやく私はミオと教室へ向かう。
「ホント最悪、許せない!あんな嫌がらせしてきたやつ!」
「…そうだね」
手の上を這い回る虫の、あの手足の感触が忘れられなくて、私は制服の裾に手をこすりつけた。
教室に入ると、すぐに何人かの女子生徒がミオを囲む。
「下が騒がしかったけど…何かあったの?」
「それが聞いてよ!もう最低なやつがいて___」
説明をミオに任せて、自分の席へ向かう。
私は目を丸くした。
そこに、“花”が飾られていたからだ。
「…え…」
私は今、教室に来たばかりだ。
いつも自分で飾っている白い花瓶と造花は、まだカバンの中にある。
だけど目の前の机の上。
黒い花瓶に挿された菊の花は、確かにそこに存在していた。
手を伸ばし、花に触れる。
ザラついた人工的な質感から、それが造花であるとすぐに分かった。
私は後ろの席へ視線を向ける。
周りに聞こえないように、小さな声で囁くように聞いてみた。
「これ、もしかして琴李が…?」
だけど、反応が返ってこない。
聞こえなかったのかな…?
そう思い、もう一度声をかけてみた。
「あの、琴李___」
琴李が私を無視するかのように顔を逸らした。
私はようやく気づく。
これが琴李の新しい“イジメ方”なんだ。
さっきの虫も、そして今…私を無視しているのも。
昨日、彼女が言っていたじゃないか。
“明日から、期待しててね”___。
あの言葉が示していたのは…コレだったんだ。
私は何も言わずに席につく。
心の中で琴李への賞賛と、これからエスカレートしていくであろう“私イジメ”への僅かな恐怖が生まれつつあった。



