「あ…実由ちゃん、お帰りなさい」
部屋着姿の琴李に「ただいま」と返事をして言葉を続ける。
「午後からの雨、大丈夫だった?」
「うん、折り畳み傘を持ってたから…無事にお買い物できて良かった」
「お買い物?どこか寄ってたの?」
「えへへ…うん、ちょっとね」
そう言ってリビングへ向かう琴李が、すれ違いざまにそっと耳打ちをした。
「明日から、期待しててね」
そう呟いて由太の元へ向かう彼女の背中を見つめて首を傾げる。
…どういう事だろう?
「まぁ、いいか」
そうポツリと呟いて、着替えのために自室へと向かった。
その翌日。
私は琴李の言葉の意味を知る事になる。
朝が来て、いつものように由太を小学校まで送り届ける。
今朝は琴李が既に登校していたから、由太は少し不服そうにしていた。
自分の学校の門をくぐり、下駄箱に向かう。
「おはよ、実由」
「おはよう」
ミオと挨拶を交わしながら自分の下駄箱へ向かった。
「今日は成宮さんと一緒じゃないの?」
「うん、今日は先に行くってメモがあった」
話しながら、上履きを取り出そうと下駄箱を開ける。
その瞬間、中から何かが飛び出してきた。
「きゃっ___!?」
「実由!?どうしたの…って…」
ミオが私の制服、その胸元で動く物体を見て後ずさる。
「やっ…嫌だ…!!ゴキブリ!?」
長い触角。
黒光りする体に、不快な音を放つ羽音。
大量のゴキブリがカサカサと音を立てながら辺りに散らばった。
「きゃあっ!?」
「来ないで!気持ち悪い!!」
響き渡る生徒達の叫び声に、先生達も総出で動き回る虫を捕まえ、逃がして、駆除をしていく。
その騒動を離れた階段から見下ろす姿に気づいた。
私は視線を向ける。
そこには琴李がいた。
彼女は感情の読めない表情のまま、静かにその場を離れていく。



