「あ、あの…成宮 琴李です。よろしくお願いします」
エリスさんからもらったという苗字、“成宮”という名は思っていたよりずっと彼女になじんでいた。
パチ…パチと、最初はまばらだった拍手が徐々に大きくなっていく。
やがて盛大な拍手に包まれた琴李が、深々とお辞儀をした。
「それじゃあ成宮さん。空いてる席に座ってね」
先生に促され、琴李が並んだ机の隙間を通って歩き出す。
私の机の横を通り過ぎようとして、彼女の足が僅かに停止する。
視線は机の上。
飾られた花瓶と造花を見つめていた。
***
「琴李、学校の中を案内してあげるよ」
二時限目が終わるなり、私は真後ろの席に座る琴李に声をかける。
視界の端で琴李に声をかけようとしていた生徒達が、伸ばしかけた手を引っこめているのが見えた。
私が先に声をかけたから声をかけづらいのだろう。
「ほら、行こう」
琴李の手を取り、廊下へ出る。
三階と二階を繋ぐ階段の踊り場に差しかかった時、琴李が話を切り出した。
「実由ちゃんは…イジメられてるの?」
「えっ?」
「机の上のお花、見たよ。も、もしそうなら…私、皆に止めてっていうから…」
うつむいてプルプルと震える彼女の両肩に、私はそっと手を置いた。
「違うの、大丈夫!あれは自分でやってる事だから…」
「え…自分でって…実由ちゃんが、自分自身をイジメてるの?」
困惑した様子で目をパチパチと瞬かせる琴李。
…その反応。
やっぱりそうだよね。
私は踊り場の壁に背を預けた。
目の前をはしゃいだ生徒達が通り過ぎていく。
それを眺めながら、隣にいる琴李へ呟いた。
「私ね、雛っていう友達がいたんだ」



