「…琴李ちゃん」
そう言ってなぜかベッドから下りて、机へと向かい備え付けのイスに座った。
「どうしたの?」
「どうもしない!オレ、今から宿題するからねーちゃんも琴李ちゃんも出てってよ」
「は!?」
“今から宿題する”なんて、思わぬ言葉が弟の口から飛び出して私は困惑した。
こんなのいつもの由太じゃない。
宿題はいつも後回しで、勉強苦手でテストの点数も悪いこの子が、一体どうしたんだろう。
私は琴李に耳打ちする。
「エリスさんの力って、性格も変えちゃうの?」
琴李は小さく首を振った。
「ううん、エリス様の力はあくまでも“記憶の上書き”だから…関係ないと思うよ」
じゃあ何で___。
そう思った時、ふと気づいた。
由太の耳が赤く染まっている事に。
しかもよく見るとチラチラと琴李を盗み見ているようだった。
…これは、もしかして…?
試しに、由太にこんな提案をしてみた。
「ねえ…宿題やるなら、琴李に教えてもらったら?」
「えっ…!?」
由太が凄まじい勢いで私を見た。
その顔は耳と同じで赤く染まっている。
やっぱり。
由太は琴李を意識している。
好意を持っているからカッコつけて勉強しようとしていたんだ。
弟の意図が分かると、何だか可愛らしく思えてきて、私は笑みを浮かべた。
「琴李、私は夕飯を作ってくるから…その間、由太に勉強を教えてあげててくれる?」
「う、うん…私でいいなら___由太君」
琴李が由太の机に向かい、話しかける。
「えっと…お勉強、一緒に頑張ろうか?」
恥ずかしそうに頷く由太。
二人を残し、私は部屋を出た。
その足で隣にある自分の部屋に行き、カバンを置いて制服から部屋着へと着替える。
由太が琴李を意識しているのは意外だったけど…琴李の存在自体に違和感を持っている素振りはなかった。



