一人その場に残された私は、去って行く弟の背を見送り小さく息を吐く。
この様子だとそのうち手すら繋がなくなるんだろうな。
ブラコンの自覚はないけど…少し寂しい。
あと、やっぱり手を繋いでおかないと心配になってしまう。
何がきっかけで事故が起こるか分からない世の中だ。
だったら…守れる可能性は少しでも残しておきたい。
「…もう後悔したくないし…」
…まあ、私が傍にいたとして、必ず守れるとも言い切れないんだけど。
高校がある方角に向けて無言で歩く。
10分ほど経って校舎が見えてきた頃、横断歩道で信号待ちをしている友人が目に入った。
「ミオ、おはよ」
声をかけ、ポンと肩を叩く。
「あ、おはよ実由~。今日も無事に弟君と登校できた?」
「途中で手ぇ解かれちゃった」
「あはは、可哀想に」
信号が青に変わり、並んで歩きだす。
昨日見た恋愛ドラマについて会話をしながら校門をくぐり、自分達のクラス…3年1組がある三階まで向かった。
「ミオ、ちょっと待ってて」
教室に入るなり私はいつものように自分の机に向かい、カバンを置く。
その中から小さなプラスチックの花瓶と、造花を取り出す。
その様子を見てミオが呆れたように眉をひそめた。
「…アンタさ…そろそろソレ、止めたら?」
「いいの。したくてやってるんだから」
そう言いながら白い花瓶に造花をさし、自分の机の上に置く。
まるで亡くなった人やイジメを彷彿とさせるソレを指先でつつきながらミオが呟いた。
「…ねー、何でこんな事してんの?」
「それは…」
イジメられるってどんな気持ちか知りたいから。
そんな事を言っても、理解してはもらえないだろう。
それでも近い答えを上げるなら…。
「…償うため、かな」
「え?」
ミオが首を傾げる。
私の時間はあの日、あの子を殺した時のままで止まっているみたいだ。



