「保健室の先生、お留守みたいだね」
ようやく辿り着いた目当ての場所で、ひなたが呟く。
薬品の臭いで満たされた空間には、私達以外、誰の姿もなかった。
「奏ちゃん、ここに寝てよう?」
ひなたが私をベッドの上に寝かせる。
そして周りのカーテンを静かに閉めた。
区切られた空間でひなたと二人、言葉を交わさずに過ごす。
ひなたは無言のまま、時々私の頭を優しくなでてくれていた。
「…ありがとう、だいぶ良くなった…」
しばらく時間が経ち、ようやく上半身をベッドから起こす。
「奏ちゃん…まだ無理しちゃだめよ」
心配するひなたに私は小さく笑った。
「もう大丈夫…ひなたのおかげでね」
「ふふ…私はなにもしてないよ」
そんなことない。
あのままひなたが来てくれなかったら…私は今頃、教室で倒れていただろう。
「ねぇ、奏ちゃん」
ひなたが私の手に、自分の手を重ねた。
「…ん?」
「また具合が悪くなったら、いつでも頼ってね。私はいつでも奏ちゃんだけの味方だから」
「ひなた…」
心がじんわりと温かくなっていく。
私は穏やかに微笑み、頷いた。
「…うん、分かった」
私が言い終わるや否や、保健室のドアが開く音がした。
「あら、誰かいるの?」
声から察するに先生が帰ってきたらしい。
「私が説明してくるよ。奏ちゃんはもう少し休んでて!」
そう言ってひなたがカーテンの向こうに行ってしまった。
一人になった空間で、聞こえてくる話し声をぼんやり聞き流す。
…少しだけ、寝させてもらおうかな?
私はゆっくりと目を閉じた。



