雛の細い腕を強く掴む。
「離して!死ねば楽になれるの…!本当のお母さんに会えるの!私の幸せはそこにしかないのっ…!」
飛び降りようとする雛の体を必死に自分のいる方に引っ張り阻止する。
体重を後ろにかけようと取っ組み合いながら一歩下がった時だった。
「っ、きゃ___!?」
転がっていた缶を踏んでしまい、手が離れた。
広がる光景がスローモーションのように流れていく。
尻もちをつく私。
目の前には、前に前に体重をかけていた雛。
___あ…。
小さく呟いたその言葉が、彼女の最期の言葉だった。
雛の体が屋上の外に投げ出されて。
それで。
私は急いで手を伸ばして…でも。
指先がかすっただけで、雛の手を取る事はできなかった。
下から大きな音がして。
雛は死んだ。
私はその場で固まって。
でも、まだ助かるかもしれないって。
そう思って。
階段を転がりながら駆け下りて、落ちた雛に近づいた。
そこにはうつろな目で横を向いた雛がいて。
骨は折れて変な方向に曲がって。
私は口元を押さえたまま、その場から逃げ出した。
鬱蒼と茂った草木の中、蚊に刺されながら獣道を辿って戻って。
運よく目の前を通りがかったタクシーに乗せてもらって駅に戻って、家に帰った。
私は逃げちゃったの。
警察を呼ぶなり救急車を呼ぶなりできたはずなのに…あんな場所に雛を置き去りにして、一人で逃げたの。
これが罪じゃないなら、なんて言うの?
ねえ、琴李。
私もあの日、雛と死ねばよかったんだよ。
***
****
*******
**********



