キミの感情

そう言って彼は私に微笑むと、今度は凝視するように私の顔を見つめている。男性が向ける自分の容姿への視線にはもう慣れたつもりでいたが、やっぱり居心地は悪い。

私は迷ったが手前のマフィンを指差した。

「アイス抹茶ラテのトールと、マフィンをお願いします」

「承知致しました」

そして会計をすませるとレシートと一緒に一枚のナプキンが手渡される。そのナプキンには文字が書かれていた。

『今度会えませんか?古谷 電話番号080-○○○△-△○○○』

読み終え無言で彼を見れば、切長の瞳をニコリと細めた。私は視線をふいっと逸らすと商品を受け取り、美咲の待つ席へと戻った。


「ごめんね。待たせちゃって」

そう言いながら私は席に座ると同時にレシートと一緒にナプキンをくしゃっと丸める。美咲に気づかれないようにしたつもりだったが、彼女の視線は私の握りしめた拳に向けられていた。


「それ、また声かけられたの?」

「……えっと……」

「もしかしてあのイケメンから? ちょっと見せて」

「あ……っ」

美咲が私の手から丸まったナプキンを取り上げると広げる。そして面白くなさそうにアイスラテを吸い上げながら私を睨んだ。

「何? あたしに見つからないようにあとで連絡しようって魂胆?」

「違うよ……こんな風に知らない人から声かけられても困るから……その、あとで処分しようと思って……」

「なにそれ嫌味? どうせあたしは声かけられなかったわよ」

「ごめんね、そんなつもりで言ったんじゃないの……」

「はいはい。そうやってすぐに謝ることであたしを悪者にしないでよ」

「あの、ご……、えっと美咲のこと悪者にしたいわけじゃないの」

美咲はこちらに向かって大きなため息を吐いてから、ようやくチーズケーキにフォークを差し込んだ。