キミの感情

「花音……死んだ、んだ……」

視界の焦点が合わないまま、そう言葉に出せば真っ黒な感情が蛇のようにトグロを巻いていく。

「あはは。違う違う〜死んだのは美咲だって。花音は英太の目の前にいる、あたしだよ」

美咲がそう言って椅子から立ち上がると僕の目の前に立つ。手をこちらに伸ばして僕の頬に触れる。

「ほらみて。花音だよ? だから悲しまないで」

「……哀しむ?」

僕は花音が本当に大好きだった。でも愛する彼女がもうこの世にいないことを聞いても涙はおろか、やっぱり哀しむことができない。

「僕は……わからない……」

一度でいい。涙というものを流して見たかった。もう二度と会えない彼女を思って泣き叫んでみたかった。

「英太大丈夫だよ。これからもずっと一緒にいようね」

上目遣いでこちらをうっとりとみつめる女に吐き気がする。
外見を変えただけで花音になれるとでも思っているのだろうか。
こんな愚かな女を助けるためにビルに行き、殺された花音は最期の瞬間、どんな気持ちだっただろうか。

花音はそんな目に遭わないといけないほどに悪い人間だっただろうか。

ふいに全身が沸騰したように熱くなって、言葉にならない感情が入り混じり、僕を支配して駆け巡っていく。

「あれ、どうしたの? 英太?」

「ぶっ……ぶあはははははっ」

僕はその場に倒れ込むと、腹がよじれるほどに笑った。