そして、会計は……彼がスッと出してきたブラックカードでの支払いとなった。一体いくらになってしまったのか……恐ろしい。
「あの、やっぱり自分の分は……」
「割り勘なんてダサい事、俺にさせる気か?」
うっ……視線が、痛い……
「美味かったか?」
「は、はい……!」
「なら言う事あるだろ」
「あっ、ご、ごちそうさまでした……! ありがとうございました……!」
そうだ、まずはお礼言わなきゃ……! 美味しいものいっぱい食べさせてもらったんだから、それが最初よね。
「そう、それでいい。これで気持ちよく帰れるんだからそれで満足」
「……」
「だろ?」
……それで、いいんだ……?
よし、帰るぞ。そう言いつつ席から立った。けれど……背、高っ……
「……何だ」
「あっ、いえ、何でもありません……」
「……」
並ぶと、もっと高く感じる……まるで、あのお兄さんのようだ。見れば見るほど、そっくり。性格はまるで違うけれど……考え方とかは、似てる。
「早く来い。置いていくぞ」
「あっごめんなさいっ……」
でも、他の人と比べるのは失礼だ。こんなに美味しくて高級なものを食べさせてもらって、しかも貴重な体験までさせてくれた人なんだから余計だ。
まさか、三大珍味を今日食べさせてもらえるとは……驚きだ。
「タクシー呼んでやるから、気を付けて帰れよ」
「えっ、あ、いえ、駅まで歩いて……」
「いや、こんなに暗いんだから女性一人歩かせるわけないだろ」
……確かに暗くはあってもこれは日常茶飯事だし、慣れてるんだけど……と思っていたら、タクシーが目の前に停まる。そして、タクシーの後部座席を開けた彼は、「これで足りるか」と中から運転手さんに何かを渡していた。
そして、ほら乗れとタクシーに押し込んできた。
「おもてなしは最後まで」
「えっ……」
「基本だろ。ほら閉めるぞ」
「えっ」
「〝またな〟」
と、後部座席のドアを閉められてしまった。そして、タクシーが走り出す。
おもてなし、だったんだ……とツッコみたいところではあるけれど、私、タクシー代あるかな。
けれど……またな?
「紳士な方ですね」
「えっ」
「タクシー代は前払いされましたよ」
……そういう、事?
確かに、紳士だった。いろいろと冷たく視線が鋭いところはあったけれど……高級料理を奢ってくれて、高級食材を食べ比べさせてくれて、最後にはタクシー代まで。
確かに、紳士だ。けど……おもてなしって言ってたし、もしかしてこれ慣れてる?
まぁ、お金持ちの方だし……慣れてるか。
タクシー代もお礼を言わないといけないいけなかった、よね。やってしまった……



