あの日、泉谷さんとの衝突で言われてしまったことは、本当のことだ。
平凡。まさにそう。
テーブルマナーなんて学校でさらっと学んだだけ。食事はずっとコンビニ弁当とか、特売の食材でパパッと作ったものとか、おにぎりとかくらい。
今回、縁談を回避するために私が一年の約束で妻になったけれど……和真さんに恥をかかせるのは間違ってる。
「テーブルマナー、ですか?」
「は、はい。その、家事の時間以外の空いた時間で講座に参加しようと思っているので、ご迷惑はかけないようにします。なので……」
小夜子さんと一緒に家事をこなしているから、彼女には伝えたほうがいいと思った。けれど……和真さんに言えば、そんなのはいらないと言ってくると思う。
だから、言わない方がいい。
「そう、ですか……でしたら、僭越ながら私がお教えいたしましょうか」
「えっ」
小夜子さんが……?
私にテーブルマナーを……?
「テーブルマナーに礼儀作法、語学に茶道に着付けなど、いくつか資格を持っているのです。和真様と冬馬様の講師も務めさせていただきました」
今は若い方にその役目を任せ、こうして家政婦をやっているらしい。
まさか、先生だったとは……びっくりである。そんなすごい方に私も教えてもらえるの……?
いかがですか? と聞かれてしまったけれど……本当にいいのかな。
「和真様のため、でしょう?」
「……」
「でしたら、こんな年寄りではございますが精一杯務めさせていただきます」
……お見通し、ですか。すごくにこやかに見えるけれど……やっぱりお金持ちの家で働く方達は勘も鋭いのね。
「いかがですか?」
「……お手柔らかに、よろしくお願いいたします」
たった一年、されど一年。短いようで長いのだから、一年以内に何があるか分からない。
だから、和真さんが恥をかかないよう、頑張ろう。



