彼は、私の方に速足で来ると、肩を掴み反対側に立つ。
「うん、終わったよ。でもちゃんと飲み終わってからにしてあげて」
パンケーキは食べ終わっていたけれど、まだカフェラテは終わってない。ありがとうございます、言ってくれて。
「ごめんね、大切な奥さんお借りして」
「本当にな。勝手に浮気させんな。そんな事してもたもたしてるなら、俺があの女潰すぞ」
「はぁ、まだ待てと言ってるだろ。代わりが見つかるまでは駄目だ」
「俺は昔から待てが出来ない性格だが? 瑠香を火傷させたんだから、容赦はしない。それより冬真は新しい婚約者でも探せよ」
つ、潰す……兄弟の会話なのに、恐ろしい会話になってるんですけど……
もっと明るい話、しませんか……?
「飲み終わったか。帰るぞ」
いきなり急かされてしまい残っていたカフェオレを一気飲みしてしまった。
「ヒクッ」
「ぷっ」
「こら、和真」
そのせいで、しゃっくりが出てしまった。は、恥ずかしい……和真さんめ……
ほら帰るぞ、と手を引っ張られて立たされ、手をしっかりと握られてしまった。……ヒクッ!?
……あの、和真さん、笑わないで。
「こら、和真。奥さんをいじめないの。瑠香ちゃん、またね」
口を手で抑えつつ、頭を何回か頷きつつ手を振った。……あの、冬真さんも笑わないで。
恥ずかしすぎて、手を引かれつつ息を殺して店を出た。は、恥ずかしすぎる……
「ほら、瑠香」
「ヒック……」
「プッ、ククッ……」
このしゃっくりは、元々はいきなり急かした和真さんのせいだ。だから私のせいじゃない。
その意味を込めて睨んだけれど……笑いっぱなしで止まっていなかった。一人で帰りますよ、これが続くなら。
「……で、ウチの奥さんは堂々と浮気していたようだが?」
「……ヒック」
「ぷっ、ククッ……あ~駄目だ、くくっ、ぷっ……」
運転席に座りつつ、笑いのツボに入ったらしい。バシバシと自分の膝を叩いては笑いを堪えている。だいぶムカついたからちょっと強めに肩を叩いてみたけれど……ぜんぜん効いていないのがすごく悔しい。
「ヒック……っ!?」
何とか収まったらしい和真さんは……運転席から助手席に座る私の方に身体を伸ばしてきた。そして……
「んっ!?」
「これならどうだ?」
口を、あんぐりさせてしまった。今、この人何した……?
私、キス、され、た……?
「お、治ったか。それはよかった。なら帰るか」
「ぇ……」
「もう一回必要か?」
上機嫌な和真さんに対し、私は何度も頭を横に振った。いらないいらないいらない。無理、それはもう無理。
「それは残念だ」
「んっ!?」
また一発キスをされ、満足げに運転席に戻り車を運転した。
……これは、一体どういう事だろうか。全く顔の熱が収まらず、手にしていたスマホで顔を隠す事しか出来なかった。



