けれど、その時だった。
「麗子」
彼女の名前を呼んだ人がいた。そちらに顔を上げ視線を向けると……
「えっ……と、冬真さん……?」
「やっぱり、ここにいたね」
「なっ、なんで……」
和真さんのお兄さん、冬真さんがそこにいた。
どうして? どうして、彼がこんなところに?
それを聞こうとしていたら、彼はまっすぐに私のところに。
「大丈夫? 火傷していない?」
「あっ、あの、冬真さん、これは違くて……っ」
「全部知っているから言い訳をしなくてもいい。全て、和真から聞いてるから」
「えっ……」
か、和真さんから、聞いてる……?
そして、スタッフが私の方に急いで来ては濡れたタオルを渡してくれた。これで冷やしてください、と。冷たくて、気持ちがいい。ちょっとヒリヒリしていたからよかった。
でも……せっかく、和真さんに買ってもらったワンピースだから、汚してしまって申し訳ない。
「さ、瑠香ちゃんはすぐに帰ろうか。家には小夜子さんがいるだろうから、手当てしてもらいな。送ってあげるよ」
「とっ冬真さんっ!?」
「麗子はこっちだ」
あとから、数人の黒いスーツを着た方達に囲われていた。えっ……ま、全く状況が分からないのですが……
さ、行くよ。そう言われ手を握られてしまい、椅子から立たされた。
お店の外にあった、見覚えのない黒い車に乗せられてしまった。しかも、助手席……お、落ち着かない……
「悪かったね。まさか火傷をさせるとは思わず……僕が甘かったな」
「あ、いえ、そこまで酷いわけではないので……」
「君は優しいね。ありがとう。でも無理はいけないよ」
……和真さんとそっくりなのに、本当に性格が違う。もちろん声もだけれど……笑い方が、違う。
「ありがとうございます……あの、お聞きしても、いいですか?」
「どうぞ」
「あの……お久しぶりです、で、いいんですよね……?」
「うん、お久しぶりだね」
あ、やっぱりそうだった。それに、覚えてたんだ……
「あの、その節は、ありがとうございました」
「いいえ。でも、覚えていてくれてよかった。でも驚いたよ。和真がいきなり結婚したって聞いて、偶然会ったら君がいたんだから」
……でしょうね。けれど、この結婚は1年限りのものだから、結構申し訳なさがある。ちゃんとした結婚じゃないんだから。
でも、そっか……覚えててくれてたんだ。
「あの、じゃあ……約束も、覚えてますか?」
「約束……あぁ、それは別に気にしなくていいよ。女性に奢らせるのはさせたくないからね」
だから気にしないで、と言われてしまい……黙るしかなかった。やっぱり、大人の余裕だ……
だから、憧れた。尊敬した。こんな大人になりたいと。
そして、ようやく自宅に着いた。冬真さんは新しい引っ越し先を知らなかったらしく私が伝えてしまったんだけれど……
「和真は引っ越し先を全く教えてくれなかったんだけど、教えてくれてありがとう」
「……」
……私、やっちゃった?



