そして案内されたのは、とある個室。用意された席には、もう誰かが座っていた。今回のお見合い相手だろうか。
「……月城和真さん、でしょう、か……?」
その時、気が付いた。
視線を、彼に向けた。見たことのある……あれ? ……えっ!?
……数日前に、忘れ物を拾ってくれて……飲み物を奢ってくれた人……だ。
え、ど、どうして、ここに……?
「……誰だ」
混乱真っただ中の私に、その一言がぐさりと刺さった。
あれ……? だ、誰だ……?
ちょっと待って、うん、ちょっと待って……違う、人だ。顔はよく似ているけれど、彼のような柔らかい笑顔じゃない。むしろ視線が鋭く表情が硬いし、涙ぼくろもある。声も、彼より低めだ。
うん、違う人だ。
「あ、は、はい、その、豊峰さんの代わりに来た大久保、です」
「で?」
うっ……
し、視線が、痛い……
「豊峰さんに、このお見合いを断りたいと伝えてほしいと、言われまして……」
本当はそうは言われていないけれど……こう言うしかない。ど、どうしよう……
「ひとまず座れ」
「あっ、は、はい……!」
まるで偏差値の高すぎる会社の面接を受けに来た気分だ。この方の視線が痛々しい。怒らせてしまったらどうしよう、ちゃんと出来なかったら豊峰さんに怒られるし、今度はお金以上な事を言われてしまいかねない……と、ネガティブな考えがグルグルと脳内を回ってしまう。
そして、目の前に座る彼のため息が聞こえてきてしまった。ビビって肩が上がってしまったけれど……し、視線が上がらない……
「そんなに緊張するな。別に取って食いやしないし、俺もこの見合いを断るつもりだった」
「えっ……」
断るつもりだった……じゃあ、もう私帰っていいって事……?
このお見合いを断りに行ってこい、って言われたんだから……もう、役目を果たしたという事でいいのよね?
「だが、ここのレストランには一度行ってみたかったから受けた。ただそれだけ」
「……なるほど」
ただ料理が食べたかったと。そういうことですか。なるほど、気持ちは分かるような、ないような。
……けれど、お見合いを断る事が達成出来たことで気が抜けてしまった。
盛大に、お腹が鳴ってしまった。
「……すみません」
は、恥ずかしすぎる……知らない人の前で、盛大にお腹の音を鳴らすとは……あ、まぁ、確かに昼ご飯はコンビニのゆで卵と野菜ジュースで済ませてしまったけれど……空気は読んでほしかった。何て事をしてくれるんだ私のお腹は。
「ふっははっ」
あ~も~恥ずかしいっ!! 笑い声が聞こえてきて余計そっちに視線が向けられないし……と、いうところで足音が聞こえてきた。
「ほら来たぞ」
「失礼いたします」
一体何の事だろう、と視線を上げようとしたら……目の前のテーブルに料理が置かれた。な、何、これ……



