メシ友婚のはずなのに、溺愛されてるのですが!?


 そして次の日、私達は早朝にホテルを出た。一応メッセージを叔母に送って。仕事と大学があるからすぐ帰ります、と。

 そもそも、そちらが私達の予定を聞かずに一泊させたんだ。それに、アルコールを叔母が勧めた時、明日は仕事があるからと和真さんは断った。それなのに強引に勧めてきたのは叔母のほうだ。

 とりあえず、もう会わないように気を付けよう。対策、と言われると中々思いつかないけれど。


「ありがとうございました」

「とんでもございません、奥様」


 そしてその日の大学帰り、和真さんから言われていた通り、見覚えのない黒い車と、60代後半くらいの男性の方が待っていた。和真さんの運転手さんらしく、そのまま住まいである高層マンションまで送ってもらった。

 和真さんは仕事で家にいるらしく、来てくれとのことだったけれど……何故呼ばれたのかはまだ聞いていない。一体どんな用件だろう。あっ、もしかして鴨肉かな。だいぶお預けにされたから、早く行きたいよね。

 そう思いつつ、運転手さんから預かったキーを使って高層マンションに。本当に私がこれを使っては言っていいのかと怖気づきそうになったけれど……仕方ない。呼ばれているのだから。

 その時だった。


「あら? こんにちは」


 マンションに入ったあたりで、後ろから声をかけられた。振り向くと、私より少し年上のような、とても綺麗な女性がいた。見覚えはないんだけれど……ここの住人かな? その姿を見ただけで、お金持ちだと分かる。身に付けているものが、高級そうだもん。


「こんにちは」

「あなた、ここに住んでいるの? 見た事がないけれど……」

「あ、いえ」

「へぇ……あら、それは結婚指輪かしら?」


 ずいっと一気に近づいてきた彼女は、私の左手の薬指を凝視してきた。だいぶフレンドリー、なのかな。


「そう、ですけど……」

「へぇ、ご結婚されているのね。素敵な結婚指輪だわ。ダイヤモンド?」

「……はい」

「そうなの。あぁ、いきなり話しかけてしまってごめんなさいね」


 いえ、と返すと彼女はコツコツとヒールを鳴らしてエレベーターの方に。私も乗らなきゃ、と思っていた時にスマホが鳴った。メッセージが届いたらしく、その相手は和真さんだった。ここまで来た事を運転手さんから聞いたらしく、ここまで迎えに来てくれるらしい。

 乗らないの? という顔を向けてきて、乗りませんと手を振ってジェスチャーすると、彼女はじゃあねと手を振ってきた。そして、エレベーターのドアが閉まる。