けれど……あの、和真さん、顔、少し赤くなってない……? だ、大丈夫……?
「あ、あの、あとは私飲むので、和真さんはもう……」
飲みきっていないグラスを、和真さんが手を離した隙に奪い取ろうと思った、のに……消えた。その代わり……えっ。
「瑠香は駄目」
数秒、思考停止した。頭が、真っ白になった。そしてその場も静かになった。
キ、キ……キス、された……?
「かっ、和真さん……!?」
「何、嫁なんだからいいだろ」
「ばっ場所!」
「恥ずかしがり屋め」
にやにやといつもの馬鹿にするような顔を見せつつ、またキスをしてきた。こ、この人酔ったらキス魔になるの!? やっぱりこんなに飲ませるのダメだった!?
またグラスを煽ろうとした和真さんのグラスを奪い取り、一気に飲み干した。3分の一くらいしか残ってなかったから良かった……いや、良かったじゃない! 和真さんそんなに飲んじゃったんだから!
「おい、駄目だって言っただろ」
「ダメなのは和真さんの方でしょっ! 部屋に戻りますよっ! あの、叔母さん、私達これで失礼しますっ!」
「待って瑠香ちゃん、和真さんは私が連れてくよ。瑠香ちゃんお母さんと久しぶりに会えて積もる話もあるでしょ? だから私が……」
「あ゙?」
ドスの効いた声が、一花を止めた。……あの、怖いのですが、和真さん。
そんな時、この個室のドアがノックされた。
スタッフかな、と思いつつ返事をすると……グレーのスーツをした若い男性が。ここのスタッフじゃ、ない……誰?
「お楽しみのところ失礼致します。社長にご用件がございまして」
「えっ」
しゃ、社長……?
和真さんはあまり会社の事は話さないからよく知らないけれど……この人は、もしかして和真さんの会社の社員……?
「社長、先日社長がお潰しになさったTOYOMINEコーポレーション社長から至急お会いしたいとの連絡が会社の方に何度も入っておりますが、いかがいたしますか」
TOYOMINEコーポレーション……あっ、豊峰さんの、お父さんの会社だ。じゃあ、その連絡って……
それを聞いた叔母と一花は……だいぶ驚きこの方と和真さんを交互に見ていた。そして、顔を見張っている。和真さんが会社の社長だという事にも驚いているだろうけれど、TOYOMINEコーポレーションは有名な会社だから、それを潰すだなんて……と思っているんじゃないかな。
「んー、そうだな……」
……ちょっと待って、この酔っ払いに今それを聞いていいの……? 何言い出すか、分からないよね……?
と、思っていたら、奥側に座っていた和真さんは、ドア側に座っていた私を後ろから抱きしめつつ肩に顔を乗せ彼にこう言った。いや、言ってしまった。
「会う気はない。俺の大事な嫁に手を出したんだから、その身を持って償え、とでも言っておけ」
「えっ……」
「かしこまりました」
「瑠香を傷つけるなら、容赦はしない。……相手が、誰であってもな」
そう言いつつ、ちらりと叔母達の方に向いたような、ないような。叔母達は、顔を強張らせていたけれど……この酔っ払い、大丈夫……?
「……あの、私達、戻りますので、最後のデザートは二人でどうぞ」
「奥様、お手伝いいたします」
「お、願いします……」
お、奥様……それを言われると、ビビる……
けれど、叔母達が見てるから平常心、よし、平常心……
「瑠香」
叔母の強めの声が、私を呼んだ。けれど……
「……お二人が元気そうで良かった。なら、もう私は必要ありませんね」
「えっ」
「瑠香っ!」
「っ……じゃあ、失礼します」
私はスタッフを呼ぶベルを鳴らした。すぐに来てくれたスタッフと入れ替わるように私は和真さんと会社の方と一緒にその場を離れた。
……まさか、叔母に向かって強気にこんな事が言えるとは思わなかった。けれど、それは和真さんが近くにいたからだと思う。



