「か、和真君、やっぱりお酒はどう? 楽しく食事したいならお酒はつきものでしょ?」
「いえ、明日は仕事ですぐ帰らないといけないので、アルコールはやめておきます」
「でもここのお酒は本当に美味しいのよ。せっかくだから一杯だけでもどう? 瑠香も飲みたいでしょ?」
いきなりお酒を誘ってきた叔母は、和真さんの返答を待たずすぐに頼んでしまった。頼めばこっちのものとでも思っているのかしら。しかも私も巻き込むし。
「はいどうぞ和真君。瑠香はこっちね」
「……ありがとうございます」
でも、さ……何で私、焼酎なのよ。二人はこれより度の低い日本酒なのに。これは嫌がらせよね。
「瑠香、今日はこっちにしろ」
「あ、いや……」
しかも、和真さんが私の焼酎と自分の日本酒を入れ替えて飲んじゃうし。
和真さんってお酒はどうなんだろう。強い方? 私は一応飲めるけれど、流石に焼酎は、一杯なら大丈夫だけど、流石にこの二人の前では酔っぱらいたくないから飲むのは避けたい。
「あら、和真君も飲める口なのね。私、お酒強い子好きなの。じゃあ次は……」
「あの、叔母さん」
「あら何瑠香? 瑠香が結婚しただなんてめでたい日にお酒を取り上げるのかしら。私はそんな子に育てた覚えないわよ?」
「……」
「いいわよね? じゃあ次は……」
「瑠香の『親戚の方』が酒豪だなんて知りませんでした。ですが、飲みすぎは気をつけたほうがいいですよ。健康のためにも」
し、親戚……まぁ、叔母ではあるけれど……一応養子縁組はしてるから表面上は親子だし……
「い、いやだわ、親戚だなんて……」
「でも、あなた方は瑠香を娘とは思ってないように見えますけどね。それじゃなきゃ、娘の旦那の手を妹に握らせませんから」
「そ、れは……初めて出来た義兄なんですもの、一花も仲良くしたかったのよ」
「でも、節度というものがあるでしょう。あなたも、妹の話ばかり。これでは、どちらが私の嫁か分からない」
私がいない間に何があったのか分からないけれど……なんとなく、分かったような気がする。
「ご、ごめんなさいね、私ったら、娘が結婚して旦那さんが出来たものだからつい舞いあがっちゃって……」
「なら、これ以上はお酒は控えたほうがいいかと思いますよ」
「そ、そうね、飲み過ぎはダメよね……!」
「えぇ、そうしてください」
と、言いつつそのタイミングでスタッフが持ってきたグラス三つのお酒を一つ取っていた。叔母が勝手に頼んでしまったものを。けれど、そのうちの一つは一花が取った。
「和真さんさっき瑠香ちゃんのお酒代わりに飲んだから、これ以上はやめた方がいいと思うわ。だからこっちは私が飲むわね。和真さんばっかり飲ませたら悪いもの」
「……」
「一花は優しいわね。瑠香も見習いなさいね」
……いつもの、口癖ね。
三つあったお酒を、私も一つ飲まなきゃと思って手を伸ばしたけれど、それも和真さんに取られてしまった。さっき焼酎飲んだのに、二つも飲んで大丈夫かしら……?
「瑠香さんは本当にお箸の使い方が上手ですね。焼き魚の食べ方も上手だ。これは小さい頃からのご両親の教え方がよかったのかな?」
「えっ……」
その言葉に、二人は驚きつつ私の空になったお皿を凝視した。私達が頼んだ焼き魚。以前、私は焼き魚の綺麗な食べ方を和真さんに教えてもらった。まさか和真さんに今日焼き魚を勧められるとは思わず、驚きつつもそれを選んでしまい……だいぶ頑張った。
確か、一花は焼き魚が苦手だったっけ。だから、食卓には焼き魚は登場しなかった。そのせいか、二人のお皿はあまり綺麗ではない。そうか、だから和真さんは私と一緒に二人にも同じものを勧めたのか。
叔母は、何も言えないのか黙ったまま笑ってごまかしている。一花もそうだ。さすがに、これでは自分の教育の成果とは言えない。
まぁ、私は彼に教えてもらっていたから出来ただけなんだけど……その時は色々と間違ってしまって恥ずかしかった。でも、教えてくれたことは嬉しかったから、今日は叔母達がいる場であっても頑張った。だから、褒めてくれるのは嬉しい。
「大学も偏差値の高いところに在学中ですから、とても優秀な方だ。そして気配りも出来て一生懸命ですからね。こんなに素敵な方と結婚させていただけて本当に私は幸せです」
「……」
……あの、凄く、恥ずかしいのですが。しかも、叔母達は口を開けたまま。信じられない、とでも思っているのかしら。



