和真さんは叔母達に連れて行かれてしまったけれど、大丈夫かな。そうビビりつつもそのお店に向かうと……
「私和真さ……」
「瑠香、おいで」
「……」
個室のソファー型の席に、腕を引っ張られ隣に座らされてしまった。けれど……だいぶ近いような気がする。
その時、こつんと靴を軽く蹴られた。隣に座る和真さんだ。
……文句は言うな、と言いたいのか。
「瑠香はどうする」
「……そう、ですね……」
「ここはね、お肉が美味しいの。これなんてどう?」
そう言いつつメニューに指を差してきたのは叔母だ。
けれど……
「瑠香、こっちにしないか。タラバガニと牡蠣は食べ飽きただろうし、これはどうだ?」
「……はい」
和真さん、今叔母の事、無視した……?
ちらり、と叔母の顔を覗き見ると驚いているように見える。
「あの、和真君……」
「どうしましたか? あぁ、実は瑠香と『鴨肉を食べる約束』をしていたんです。ですから、今日は魚介にしておこうと思いまして」
「え……」
「そちらはお決まりですか? 『大久保さん』」
お義母さん、ではなく大久保さん。叔母の事だから、きっと「お義母さんでいいわよ」と何度も言ったはず。それなのに、他人行儀。
しかも、しかもその鴨肉はだいぶ強調された。
もしかして……堪忍袋の緒が、切れた……? 笑顔が、怖い……
一体、私がいない間に何があった。
そして、和真さんが私達と同じものを叔母達に勧め、四人共同じものという事になったけれど……
「今度、また一花と出かける予定があるの。二人もどう? あぁ、瑠香は学生だから難しいかもしれないけれど……和真君はどう?」
「無理ですね」
ぴしゃり、とその場が固まった。とっても良い笑顔で、きっぱりと、即答してしまった。
「……え?」
「どうしましたか、大久保さん?」
「あ、あぁいや、和真君も優秀な会社員ですもの、忙しいわよね」
つい、顔が強張ってしまった。……二人に対して、こんなにはっきりと、言っちゃうなんて……
「可愛い妻を置いて出かけるなんて出来るわけないでしょう」
「えっ……」
「まぁ、まさか〝書類上の家族〟であっても女性二人に男一人なんてありえないでしょうからそちらの旦那さんもいらっしゃると思いますが……私だけお邪魔させていただくとなると妻が寂しく思ってしまいますから」
「……」
「私はそんなこと、させたくありませんからね。ですから、お断りさせてください」
にこやかに、キッパリと断ってしまった。
叔母の提案なのに……断っちゃった……
私に出来なかった事を、和真さんはさらっとしてしまった事に驚きを隠せない。



