メシ友婚のはずなのに、溺愛されてるのですが!?


 聞き覚えのある声が、背後から聞こえてきた。途端、振り返りたくないと思ってしまった。すぐに振り返らなかったのは、無意識、もある。

 けれど、向こうがこちらまで回ってきて、視界に入ってしまった。


「まぁ! こんなところで会うなんて思わなかったわ! 久しぶりね、瑠香!」

「久しぶり、瑠香ちゃん」

「……お久しぶりです、〝叔母さん〟」


 私の両親が亡くなり、引き取ってくれた人。そして隣には、その人の娘。私のひとつ下のいとこである一花だ。叔母の旦那である叔父はいないらしい。

 私が大学に入学してから全く顔を合わせなかったから、何年ぶりか。まぁ、仕送りはしているけれど。

 会いたくなかった。せっかく、高校を卒業して、あの家を出られたのに。

 そして、二人は私の隣に座る和真さんに目を向けた。


「それで、そちらは?」

「……私の、旦那さんです」

「初めまして、夫の月城和真です」


 この事は、私は全く叔母たちには伝えていなかった。だから、和真さんのこの一言に二人は驚愕の色を見せてくる。そして、叔母は私に視線を向け……指輪を見つけたのか、また驚いた顔を見せてきた。


「ま……まぁ! もう瑠香ったら~ちゃんと言いなさいよ! まさか結婚してただなんて~!」

「そうよそうよ、水臭いじゃない!」


 ……はぁ、面倒くさい事になったかも。私が着ているものや指輪、あと和真さんの服装などを見て一体何を思ったのかな。


「あ、お昼ご飯はまだかしら? お気に入りのところがあるの。だから一緒に食べましょう。久しぶりに会えたんだから」

「そうよそうよ!」


 つい、顔をこわばらせかけた。

 脳裏を横切った、学生時代。いい思い出なんて、ひとつもない。


「ありがたいご提案ですが、今日は妻とようやく出来たデートの最中なの……」

「瑠香、あなた釜飯好きだったわよね。そのお店、釜飯がとっても美味しいの。もちろん、一緒に来るわよね?」


 笑顔で私を見つめる叔母。絶対に断るな。目がそう言ってくる。

 叔母は、ずっとそうだった。


「……和真さん、せっかくだし、一緒にお昼、食べませんか?」

「……なら、お言葉に甘えて」


 そう答えた和真さんは、タオルを持ちつつ「瑠香」と呼んだ。足を拭かせろ、という事だろうかと予測したらその通りだったけれど……二人の視線が、痛い。