彼と長い時間、こうして歩いたことがないから……少し緊張しそう。そもそも、手を繋いで長い時間歩く事だってないのに。
「……どんなお店ですか」
「……あれ」
指を差したのは……えっ。
や、焼き、まんじゅう……?
鴨肉と、だいぶかけ離れているのですが……?
「さすがに昼飯前に鴨肉はないだろ」
「……まぁ、そうですけど」
でも、ご飯前にまんじゅうってどうなんです?
ほら、と渡された串にささっている焼きまんじゅう。うん、美味しそう。あんこが入っていないらしく、一口かじってみると……美味しい!
「美味いか?」
「美味しい、です……!」
「ならよかったよ」
ここは温泉街らしい。まさか温泉街巡りをするとは全く思わなかった。すぐに鴨肉が食べられるお店に行くんだと思ってたから……
でも確かに、時間的にまだ早い。
「まだ食い足りないか?」
「これから鴨肉食べるんじゃないんですか?」
「ちょっとならいいだろ」
……まぁ、ちょっとなら。
「それに、歩けば腹は減る」
確かにそうだ。お腹が空けばもっと美味しくなる。なら、いっぱい歩いたほうがいい。ダイエットにもなるし。最近美味しいものの食べすぎなのかちょっと体重が増えているような、ないような。だから気合いを入れて歩かなきゃ。
和真さんは事前に調べたのか、色んな所に案内してくれてはソフトクリームを食べ、プリンを食べてでスイーツ尽くしとなってしまった。こんなに食べちゃっていいのかなと内心思いつつも、スイーツは正義と自分に言い聞かせた。
「湯もみですって。見ます?」
「猿がやるやつか? 別に猿がやてるところ見ても何もないだろ。そもそも、自分でやった方が効率的だが?」
「……」
「見たいか?」
「……いえ、いいです」
うん、確かにこの人はそう言うだろうな。私も、ただ言ってみただけだし。なら、そろそろいい時間だから鴨肉食べに行った方がいいか。
「それより、足疲れたか。足湯でもするか?」
「あ……」
彼が指を差した先には、屋根の付いた開放的な足湯の場所があった。何人かいるけれど、空いているところもある。
今は春で、そんなに気温が低いわけではないけれど、足湯って血流をよくしてくれるんじゃなかったっけ。
「あったか……」
足を入れてみると、とてもちょうどいい湯加減で気持ちが良い。
外出先で足湯だなんて、初めてかもしれない。
「いいな、足湯」
「血流が良くなりますよ」
「冷え性と、あとむくみ改善か? お前いつも手冷たいから冷え性だろ」
「そうですか?」
隣に座る和真さんに両手を握られてしまった。ちょっと恥ずかしいけれど……うん、やっぱり和真さんの手、温かい。でもこれは、私が冷え性だから感じるわけではない気もする。
「……手、大きいですね」
「男だからな。当たり前だろ」
まぁ、そうですけど。
けれど、その時だった。
「あら? 瑠香?」



