「おい、出かけるぞ」
「……は?」
朝、玄関を開けたら和真さんが睨みつけてそう言ってきた。朝からなんなんだ、と思っていたら……玄関から引っ張り出され、私の手にある玄関の鍵を奪い取り施錠をすると、そのまま引きずるかのように私を連れて進んでいった。
「ちょっ和真さんっ!?」
その行き先は……駐車されていた和真さんの車。いつものように、助手席に押し込められてしまった。
「出かけるって、どこにですか!!」
「秘密」
「はぁ!? これから大学ですけど!!」
「必修じゃないだろ。なら休め」
「はぁ!?」
確かに必修でもないし単位も順調に取れているけれども!! 今日一日の講義を全部休めと!? そう言いたいの!?
抗議しようとしたけれど……和真さんのその視線がとても冷ややかで、これは黙ったほうがいいと感じ口を閉じた。いつぞやのお見合いで向けられた顔だ……
もしかして……だいぶ、怒ってらっしゃる……?
「黙って座ってろ」
「……はい」
「よろしい」
はぁ……七瀬さん、絶対心配しちゃうよね……いつも一緒に講義受けてるんだもん。待ってても私が来ないんだから。
とりあえず、和真さんに捕まりましたとでもメッセージを入れるかぁ……
「……鴨肉ですか?」
「当たり前だろ。どれだけお預けされたと思ってるんだ」
……なるほど、もう爆発寸前だったと。そう言いたいのか。確かにだいぶ待たせてしまっていたけれど。朝から晩までバイトがあって、大学の講義もあってと中々時間が空かなかったから仕方ない。
だいぶ怒らせてしまったのか、車内は静かになってしまった。だから、私も外を見るしか出来なかった。車のウインカーとかの音と、メッセージを送ってきた七瀬さんの通知音が鳴るくらい。
……きまずい。まぁ、私が悪かった……かもしれない。私が意地張った、のもあるけれど……でも、結婚した仲だとしても、全部頼ってしまうのは違うと思うし……
「ここから歩くぞ」
「えっ?」
スマホを見ていた隙に、和真さんはコインパーキングに車を駐車していたらしい。コインパーキングを利用するなんて今までなかったし、お金持ちの方が利用するなんて思いもしなかったから、素っ頓狂な声を出してしまった。
そんな私に気が付いた和真さんは、呆れた顔を見せてきたけれど。
「行くぞ」
一体どこに行くんだろう、と思っていたら手を繋がれ軽く引っ張られた。まさか繋ぐとは思わず、内心驚きつつも彼に付いていった。



