「ごめんね瑠香ちゃ~ん! 未那ちゃんが辞めることになっちゃって、人手不足になっちゃうからスタッフ皆に未那ちゃんの分を分担してほしいの。だから瑠香ちゃんもシフトを少し多くしても大丈夫?」
「え……」
「学生さんなのにごめんね~。すぐにスタッフ探すから、それまでお願いしたいの」
私の片方のバイト先であるカフェは、今は大忙し。その理由は、とある人気SNSユーザーが最近ここのカフェの写真を投稿してしまったからだそうだ。そんな時に働き者の未那さんが辞めてしまうなんて……地獄?
予測していた通り、今日もだいぶお客さんの人数が多く、しかも一人いなくなってしまった事によってスタッフ全員が大忙しとなってしまった。
「瑠香ちゃんこれお願いっ!」
「はいっ!」
ついさっき和真さんにはバイトを辞めろと言われたけれど……いや、さすがにこんな時に私も辞めてしまうのは無理に決まってる。そもそも辞める気はないけれど。
「レジお願いっ!」
「はいっ!」
大忙しだという今の状況を和真さんに話せば、納得してくれるだろうか。
……いや、ないな。どうせまたお金の力で何とかするに決まってる。そんなの、絶対に嫌だ。
「……今日も来たんですか」
「何だよ、来たら駄目か」
「……あの、今日もバイトなのですぐ行かないといけないんですけど」
「送る」
それなのに、毎日律儀に大学帰りに迎えに来る。そして、バイト先まで送ってくれる。何だか申し訳なくも思うんだけど……でもバイトに送れたら大変だからありがたくもある。
「お仕事はどうしたんですか」
「うちの会社はリモートワークを推奨してるんだ。だから会社に行かずとも仕事は出来る」
「へぇ……」
でも、彼は社長さんでは? 社長さんが会社に行かなくていいのだろうか。
……もし私のせいでお仕事に支障をきたしているようなら、断りたいところでもあるけれど……絶対に言わないだろうな、この社長さんは。
「……行ってきます」
「おう」
そして、今日もバイト先の駐車場まで送ってくれて、「行ってきます」とバイト先に向かった。
最近、だいぶぶっきらぼうな気がする。まぁ、絶対にバイトはやめないの一点張りにしていたから、だいぶ不機嫌にさせてしまっていたし……だから、会話もあまり続かないから顔を合わせるのは気まずい。まぁ、送ってもらっている側なんだけどさ。
ここは飲食店だから、当然結婚指輪はチェーンに通している。いや、傷なんてつけてたまるもんですか。結婚しているという事は一応店長に伝えてあるけれど。
「あらあら、今日も旦那さんに送ってもらったの?」
「あー……はい」
「いいわね~新婚さんは♡」
「……」
こういうのをいっつも言われるから困る。新婚さんっていじられるのは本当に苦手だからやめてほしい。心も抉られるから。
でもどうせ、あの人の頭の中は鴨肉なんでしょうね……
まぁ、私も食べたいけれど……でも、私の我儘でバイト先に迷惑はかけたくない。それに、しっかりと自分で家賃に光熱費にと生活費はしっかりと払いたい。だって、仕送りに借金にと払ってくれたんだから。そのおかげで余裕が出来て貯金もどんどん貯まっているし。
だから、新しいスタッフが入ってくるまで頑張らなきゃ。
……と、思っていたのに。



