ここは……備品が収納されている倉庫かな。そういえば、高校でもこんな事あったっけ。確か、明日空けてあげるって言って放課後に部屋に入れられてしまい、この一部始終を見ていた近くの子に開けてもらったんだっけ。
はぁ……どうしたものか。今の時間は……お昼時だよね。七瀬さんが気付いてくれるだろうけれど、ここにいるって気付いてくれるのは……難しいな。スマホ取られちゃったし……
「……誰かーー!! 誰か開けてーーっ!!」
ドンドンとドアを叩きつつ大声を出すけれど……しぃーん、と静かで外から音が聞こえない。ここ、裏庭だからあまり人通らないよね……
呆れてしまい、声を上げる気力もなくなってしまった。
「はぁ……」
このドア、どうやって壊そうかな……叩いても痛いだけだし……何か投げていいものは……
……和真さん、豊峰さんがいたら怒るかな。まぁ、パパ活呼ばわりされたら怒るだろうけどさ。でも、豊峰さん大人っぽくて美人だし、そもそもあの日のお見合い相手は彼女だし。
彼女は、とある企業の社長令嬢。となると、こんな貧乏な私より彼女と結婚した方が有益とか、そういうのがあると思う。……適当に見繕う方が面倒だ、とも言っていたけれど。
……昨日のズワイガニ、美味しかったなぁ。牡蠣も最高だった。それに、楽しかった。
『魚肉と比べるなこのアホ。ズワイガニに謝れ』
なんて言われた時は、馬鹿にされているように聞こえてカチンと来たけれどさ。でも、楽しかった。
それに……和真さんって、手大きいのね。それでいて、あったかい。まぁ、手繋いだ時はそれどころじゃなかったけれど。
今日だって、昨日買ってもらったあの洋服は着てこなかったから、どうせ文句言われるんだろうなと思っていた。でも指輪はチェーンに通して首にかけてるからそれで勘弁してもらうつもりだったけれど……それも必要なくなったって事?
「……鴨、食べたかったな」
この前食べた鴨は、七瀬さんが用意した合鴨鍋だった。それが何となく悔しかったらしく、今日は鴨料理を食べに行く事になっていた。一体どんな張り合いよ、これは。
でも、鴨料理のお店の写真を見せられてしまい、だいぶ楽しみにしていた。それなのに……はぁ、今日のご飯はもやしかなぁ。
そう思っていた時だった。
「咲っ!?」
そんな声が遠くから聞こえてきて、足音がどんどん大きく聞こえてくる。そして、この部屋のドアが開かれた。



