「あの、本当にごめんなさい。時間が空いたら、奢らせてください……」
「え~いいよいいよ! むしろ私が奢りたいっ! 瑠香ちゃんは初めての大学のお友達だもんっ!」
「えっ……」
初めての、大学のお友達……え、だって、こんなに可愛くて元気な女の子なのに、私が大学で初めてのお友達……?
「あの、ごめんなさい、私もです……」
「え~! 私が初めてのお友達なの!? うわ~嬉しいっ! これは絶対カフェデートしなくっちゃ!」
……この元気パワーの迫力が凄い。けれど、だいぶ喜んでくれているように見えるから、私も嬉しいかもしれない。……相手はお金持ちのお嬢様だけど。
けれど、その時視線を感じた。とても鋭い、視線を。
「瑠香ちゃん、気にしなくていいって。私がいるから大丈夫だよ」
「……うん、ありがとう」
私達を見てくる豊峰さんは、社長令嬢。本当に大丈夫なのかな。そう、思ってしまう。まぁ、七瀬さんもなんだけど。
けれど……七瀬さんは私の事をよく知らない。もし知られてしまったら一体どんな態度を見せてくるだろう。きっと、優しい彼女なら「気にしないから大丈夫だよ」と言ってくれると思う。けれど、内心どう思っているのかは分からない。
これは、悪い癖よね。
……と、思っていたけれど。
「……ねぇ、何であなたがいるのよ」
「何」
うん、やっぱりこうなるよね。
講義終わりに、校門前で七瀬さんと別れるはずが……何故か校門近くに見覚えのある車が駐車されていて、しらーっと車に背を預けてスマホをいじる彼を目撃してしまった。いや、近くのカフェにって話しましたよね。
「和真、何でこんなところにいるのよ」
「瑠香迎えに来た」
「……は?」
それを聞いた七瀬さんは……私の方に視線を向けてきた。さて、困ったぞ。私はどんな言い訳をすればいいのかしら。
「……和真にお友達がいるなんて思いもしなかった。瑠香ちゃん、強制されてない? 大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です……」
「ご飯につられてない?」
それは……お答え出来ないな……世界三大珍味を食べさせてくださいました。しかも今日はズワイガニです。……だなんて。
「瑠香、さっさと乗れ」
彼は、眉間にしわを寄せつつ、助手席を開けた。そして、私の腕を掴んでは引っ張り助手席に押し込んできた。
「ちょっと和真っ!!」
「凜華、気を付けて帰れよ」
「はぁ!?」
なるほど、捕獲完了と。顔にさっさと帰れって書いてありそうな気がするような、ないような。
とりあえず、私は七瀬さんに向かって手を合わせ「ごめんね」と伝えておいた。あと、手を振っておく。……あの、七瀬さん、口開けっぱなし。閉めて閉めて。
「はぁ……面倒くさい」
そして、さっさと運転席に乗ってきた彼は……気だるげに見える。というか、呆れてる?
「あの、カフェに集合でしたよね……?」
「俺が大学に行ってさっさと拾った方が効率的だって言ったような気がするんだが」
「……」
昨日はその話で七瀬さんがいるって言い返したけど、適当に言っとけ、って言われたんだっけ……結局出来なかったから、あれは私のせいだと。そう言いたいのか。
「さっさとチェーン買ってズワイガニ食い行くぞ」
「……はい」
うん、彼の頭の中にはもうズワイガニしかないらしい。
でも、私もだいぶ楽しみにはしていた。だって、今までかにかましか食べたことないんだもん。足をポキっと折って引っこ抜くんでしょ? 楽しみすぎる。



