「はぁ、大丈夫かな……?」
次の日。朝から大学ではあるんだけれど……昨日もらったこの指輪を持っていかないといけないと思うと、不安でしょうがない。今日大学の講義終わったらこれに通すためのチェーンを買いに行く予定だから持っていかないといけないんだけど……だってこれ、ハイブランドの結婚指輪でしょ、絶対。
しかも昨日、無難なダイヤモンドにしたって言ってたし……はぁ、そんなものを私が持っていてもいいの? 大丈夫?
しかも……大学以外で付けないといけないなんて、不安すぎる。箱から出したくないとまで思っちゃうもん……
そして……
「おはよう、瑠香ちゃん!」
大学ですぐに捕まえに来た七瀬さんに、絶対に見つからないようにしないと。昨日、鴨鍋食べた後に結婚しましたなんて口が裂けても言えない。はぁ、嘘ついてるみたいで心が痛いわ……
しかも、その相手が七瀬さんの幼馴染だなんて……
七瀬さんは、昨日ハンカチを貸してくれたいわば恩人。そんな人に嘘だなんて……はぁ。
「大丈夫? 風邪は引かなかった?」
「あ、うん、大丈夫……」
「そう? よかった。じゃあまた何かあったらちゃんと言ってね」
……笑顔が、眩しい。
「で、あの後和真は何もしなかった? 大丈夫だった? あいつ強引なところがあるから」
「……あ、ううん、何もなかった、よ……」
「本当に?」
「うん、本当に」
婚姻届に、サインしました……たぶんもう、役所に提出したと思う。
彼は、七瀬さんについては面倒だけど適当に言っておけばいいって言ってたっけ。でも、適当って何? 上手い言い訳が思いつかない……彼に投げやりにする?
「あ、昨日の鴨鍋、ありがとうございました」
「いいよいいよ、私も楽しかったもん。また一緒に食べようね。あ、今日は講義終わり何か予定ある? 気になってるカフェがあるんだけれど、一緒に行かない?」
えっ……講義、終わってから……
待って、貴方の幼馴染さんと一緒に結婚指輪に通すネックレスチェーン買いに行きますなんて言えませんけど!?
「あ、あの、ごめんね。今日はちょっと……」
「そっか~、じゃあ明日は? 明日は空いてる? 講義ないよね?」
「……ごめん、一日バイト入ってる」
「んも~! 瑠香ちゃん忙しすぎっ!」
あの、本当にごめんなさい、幼馴染さん……申し訳なさすぎる。昨日美味しい鴨鍋ごちそうしてくれたのに……



