「よし、出来たぞ」
ダウンロードして印刷した婚姻届が、リビングのテーブルに置かれた。うん、画像でも見たけれど、可愛いな。
「私、最初に書いていいですか……?」
「ん?」
「後に書いて間違えたら申し訳ないんで」
「ぷっ、ははっ。あぁ、最初に書いていいぞ。間違えてもまた印刷してやる」
……でも、それだと紙とインクが勿体ない。よし、気合いを入れて書くか。
けれど証人はどうするんだろう、と思っていたら……そちらの運転手さんとお手伝いさんに書かせるらしい。それでいいんだ……何だか申し訳ないな。
そしてようやく記入が終わり、明日の朝彼が代わりに出しに行ってくれるらしい。
「……」
「どうした?」
「いや、あっさりしてるな、と思って……」
「まぁ、結婚なんて書類書けば出来るもんだしな。それよりズワイガニだろ、ズワイガニ。そういえば冬真、兄が仕事で行ったところのカニが美味かったって言ってたんだ。そこ行くか?」
「……遠いところじゃないのなら」
この人の頭の中はもうズワイガニになったらしい。婚姻届を書いて直後なのに。
けれど、さ……今婚姻届書いたから、まだ提出はしていないけれど……昨日初めて会った人と、結婚してしまったって事よね。昨日のお見合いは……大体この時間だったかな。ようやく一日経ったってところか。
何だか、変な気分だ。けれど、うん、ズワイガニが食べたい。ついさっき鴨鍋食べたけれど。
「で、泊まってくか?」
「……」
……ん? 泊まってくか? ここに? ここに泊まるの?
「いえ、帰ります」
絶対に、無理。こんな高いところで安心して心地良く寝られるわけがない。
「いや、即答すぎるだろ。喧嘩中の新婚かよ」
まぁ、確かに新婚ではあるけれど。でも、こんなところで寝られるか。
「はいはい、ならちゃんと送り帰してやる。だからその前にお前の口座番号な」
「え?」
「仕送りと借金は払ってやるって言っただろ」
「……あの、それ、本気だったんですか」
「ロリコン呼ばわりだけはされたくないからな。借金に関しては全額一括払いできっちり払ってやる。いくらだ」
一瞬カッコよく見えたけれど……マジでロリコンが嫌いなのね、この人。何、トラウマになってるの?
借金とか仕送りとかさすがに支払わせるのは申し訳ない、と思っていたけれど……彼の危機を守った事が、彼にとってどれだけ大きいものなのかが伝わってきて、何も言えなくなってしまった。
「……ありがとうございます」
「こちらこそ」
お金持ちも、大変なんだなぁ……お疲れ様です。



