メシ友婚のはずなのに、溺愛されてるのですが!?

「これ、忘れてるよ」


 駅の中を歩いている時、声をかけられた。

 誰だろう。黒い短髪で、とてもカジュアルスーツが似合う人だ。私より少し年上くらいの男性は、私の忘れ物に気が付いてくれた。


「これ、君ので合ってる?」

「あ、はい、ありがとうございます」

「どういたしまして」


 私が忘れたらしい、電車の定期券。彼の大きな手が、私の広げた手のひらに定期券を置いてくれた。きっと、駅の中にあるベンチに座った時に置いてそのままになっていたんだ。助かった。

 とてもにこやかで仕事の出来そうな彼は、じゃあねと手を振って去っていった。とても、かっこいい人だ。

 こんなにカッコいい大人なんて尊敬しちゃうな。そう思っていた。

 けれど……


「あぁ、君この前の」

「あ、はい、こんにちは……」

「うん、こんにちは」


 また顔を合わせるとは思わなかった。しかも同じ駅の中の、カフェの前で。

 今日もカジュアルスーツを着こなす彼は、この前のような柔らかい笑顔を私に見せてくれた。彼も、このカフェのコーヒーを買いに来たみたいで、私にも聞いてきた。


「あっ、はい、私も……」


 本当は、飲む気がなかった。けれど、彼ともっと話したいと思ってしまいつい言ってしまった。こんな大人になりたいと少し尊敬していたからだ。


「もしかして大学生?」

「あ、はい、すぐそこの……」

「やっぱりそっか。ここ、あそこの大学生多いからね。僕の知り合いも通ってるんだよ」


 そんな話をしつつ、一緒に列に並んだ。

 へぇ、知り合いが在学してるんだ……誰だろう。私、ちゃんとした友達がいないから教えてもらってもたぶん分からないかもしれないけれど……気になる。


「何を頼むか決めた?」

「あ、はい」


 そして、私達の番が。お先にどうぞ、と言われお言葉に甘えて先に。けれど……


「ブレンドコーヒーのホットも一つ」


 いきなり後ろから彼の声がして、驚いている内にこれでお願いします。とカードが置かれてしまった。えっ、わ、私のも一緒に!?


「学生は黙って奢られなさい」

「えっ」

「特別ね」


 人差し指を立てて唇に当て、ウィンクを一つ見せてきた。そのしぐさにドキッとしてしまい断ることが出来ず、気が付けば彼はカードとレシートを受け取っていた。本当に、奢られてしまっていいのかな……? だって、ここは私がお礼として奢るのが普通だと思うんだけど……


「この前は落とし物を拾ってあげて、今日は学生さんに飲み物を奢ってあげた。大人としていいことをしたっていうただの僕の自己満足だから気にしないで。もし気になるなら、また会った時に奢ってね」

「わ、かりました……」

「じゃあね」


 この方は、とても素敵な考え方をする人なのね……

 尊敬するなぁ……こういう大人になりたい。

 とは、思うんだけど……こんな私に出来るだろうか。