「まぁ、今までの見合いの中から適当に選ぶって手もあるが、それこそ面倒臭い。なら、楽しいやつとがいいだろ」
「……」
「食事は楽しくしなきゃ意味がない。一日3食もあるのにつまらなかったら、人生つまらないもんになるだろ。だから俺は昨日、お前とメシ友になりたいと思った」
「……メシ友、ですか」
「そう」
確かに、食事は楽しくするものだ。私も、今思えば食事なんてただお腹が満たされればいいとしか思っていなかった。けれど……昨日は、楽しかった。豊峰さんに頼まれてビビりながら行ったけれど……楽しかった。
そして今だって、3人で鍋を囲って、つまらなくは思わない。でも……
「……別に、私じゃなくても、七瀬さんとか……」
「いや、そもそも選択肢に入ってない。というより、入れる気はない。アイツの趣味に付き合わされるなんてごめんだ」
……趣味? 趣味って、どんな趣味……? あぁ、いや、そういう話じゃなくて……
「……結婚を何だと思ってるんです?」
「それはクソジジイに聞いてくれ。さっさと孫の顔見せろと何でもかんでも見合いを持ってくる頭のイカレたやつだがな」
「え……」
「そろそろ俺の兄が結婚するから、それは全部兄に任せる。だから気にしなくていい」
「へぇ……二人兄弟なんですか?」
「そ。双子だけどな」
ふ、双子なんだ……一卵性双生児、とか?
……いや、まっさかぁ。ないないない。そっくりではあっても、性格とか真逆だし。
「で? どうする?」
どうする、と言われても……
私の借金を返済してくれるみたいだし、叔母達への仕送りもしてくれるみたいだけど……さすがにそれはなぁ。まぁ、今まで高級なものごちそうになったけど。
でも、助けてくれと言われたわけだし……ロリコンが嫌らしいし。まぁ、さすがに12歳は、ね……
「……私、貧乏なのであなたと考え方とか、全然違いますけど」
「でも、口は合う」
さっきからこの人、そればっかりだな。
はぁ、両親のいない孤児だって事を知っていてこれ言ってくるとは……
孤児なのに……鴨鍋一緒に食べさせてくれた。
しかも今朝、昨日奢ってもらったことを、一言も出さなかった。食わせてやったんだからサインしろ、って言わなかった。
「……確かに、結婚したら口が合わないとどっちかに合わせないといけないっていう苦労聞いた事あります」
「まぁ、俺は絶対にそこは譲らないな」
確かに、私も譲れないかもしれない。



