メシ友婚のはずなのに、溺愛されてるのですが!?


 と、思っていた時だった。車の助手席に、背を預ける方が一人立っているのが見えた。


「……えっ」


 七瀬さんの驚いた声を聞きつつ、校門に近づくと。……あっ。


「あ、いた」


 飲み物を奢ってくれた彼……ではなく、昨日世界三大珍味を食べさせてくれた、月城和真さん、だった。

 ……今朝、私が頬を叩いてしまった人。

 怒ってる、かな。いや、絶対怒ってる、はず。


「お前ら知り合いだったのか」

「何でこんな所にいるの」

「ん? 鴨肉食いに行くからここで瑠香拾うつもりだった」


 ……ん? 鴨肉、食べに行くから……私を拾おうと思った?

 待って、あれ本気だったの……? 今朝ポストに入れていったあの紙に書いてあったのは。


「食いたいだろ」

「……」


 そう聞かれても、私、何て答えたら……?


「おい、瑠香」

「……はい」

「なら鴨肉と黒毛和牛、どっちがいい」


 ……さぁ? 私に聞かれても……


「知り合いだったんだ……しかも、マイカーまで……」

「何だよ」

「いや、珍しい事もあるんだなぁ、って」


 七瀬さんも、この人と知り合いだったんだ……しかも、何となく親しげ?

 けれど、マイカー……自分でマイカーを出すことは珍しい、って事……?


「……お前、水でも被ったか? 濡れてんぞ」

「お前って何よ、お前って。瑠香ちゃんは今から帰るんです~! このままじゃ風邪引いちゃうもん! 鴨肉食べたいなら一人で行きな!」

「はぁ?」


 眉間にしわを寄せつつ、濡れた私の服を見てくる彼。あの、もういいんで電車で帰ってもいいですか?

 ……と、言いたいところではあったけれど、言えなかった。


「なら俺んち来い」

「……」


 おかしなことを、言われて。

 いや、この人何言ってるの。


「はぁ? 和真、何言ってるの? 可愛い瑠香ちゃん一人で野郎の家に行かせるわけないでしょ」

「はぁ? 風邪引きそうなら家で風呂入って鴨鍋すればいいだろ。気になるならお前も来い」


 ……なるほど、この方はどうしても鴨を食べたいのね。朝からずっと頭の中は鴨だったと。いや、ここで納得してはいけない?

 そもそも、何故わざわざあなたの家に行って鴨鍋をしなくてはいけないの。というところから聞きたい。いや、たぶん鴨鍋が食べたかったからって返ってきそうな気もするけれど。で、最後には婚姻届にサインをさせるつもりだろうなぁ、はは……


「まぁ、一人じゃないんなら安全だし……」


 ……ん?


「何だよ、危険なんて何もないだろ」

「はぁ? 女の子一人で男の家に行くなんて危ないに決まってるでしょ」


 ちょっと待って、七瀬さん。そこはお願いだから断って。早く帰りたい。


「ならちょっと待ってて、合鴨がいいでしょ? ウチのシェフに作らせるから。野郎の家より私の家の方がいいでしょ?」

「はぁ……」


 ……これは、鴨鍋確定?