やってしまった後に後悔したって意味がない。けれど、頭が真っ白になり、急いで立ち上がりドアを開けて彼を押し出した。しゃがみこんでいたから後ろに手を付けていたけれど……
「出てって」
「……」
睨みつける私に、静かにため息を見せた彼は意外と素直に玄関を出た。
そして、私は思いっきりドアを閉める。
動悸が、収まらない。別に、実の親がいないってだけ。そう、それだけ。それだけ、なのに……
今までだって、あった。両親がいない事で、馬鹿にされた事だってあった。
けれど……何故だろう。この人には知られたくなかった、と、思ってしまった。
ガチャ、っと鍵をかけると、足音が聞こえてきて、それは小さくなっていった。
「……え」
ドアのポストに、一枚の紙が入っていた事に気が付いた。これは……電話番号? しかも、その下には達筆な字で……
『絶対一緒に鴨肉食いに行くぞ』
「あ、はは……はぁ……」
結局、鴨肉しか頭にないのね。あの人……あっ。
気が付いた。隣に、この青い箱置きっぱなしだった。え、返さなきゃ……
ふと、ちらり、とまた箱を開けて覗いてみた。とても綺麗な、シルバーの指輪だ。綺麗だけど……一体いくらしたんだろう。これ宝石だよね。絶対高いよね。こんなもの忘れてくとか……はぁ、お金持ちの頭ってどうなってるんだろ……
「……返さなきゃなぁ」
……ロリコンにでもなっちまえ。とでも言えばよかったかな。



