「……あの、この結婚、本音を聞いても……?」
「いや? 本音はないぞ? まぁ、しいて言えば……ウチのジジイの縁談攻撃が止まなくてな。だからいっその事誰か用意しようと考えていたんだ」
「え、縁談、攻撃……」
「今朝、今度は俺より一回り下の女性との縁談が飛び込んできてな。さすがにもう堪忍袋の緒が切れた。で、お前とならちゃんと結婚出来ると思ったんだ。善は急げというからな。すぐにこれを用意して今日来たんだ」
「……今おいくつですか?」
「24」
24歳の、一回り下……
「12歳!?」
「小6はさすがに犯罪だろ。あのクソジジイは頭が狂ったらしい」
……ご愁傷さまです。
お金持ちの方の世界は、貧乏な私には全くよく分からない……
まさか、その女の子は12歳で婚約者が決められてしまうなんて……恋なんてものはさせてもらえないって事よね、それ。女の子なのに可哀そうな気もするけれど……そんなお家に生まれてしまったから仕方ない、と言われてしまえば何も言えなくなる。
「お前、確か借金と仕送りがあったよな」
……は?
何で、この人知ってるの……? 父方の叔父に押し付けられた借金と、両親が不慮の事故で亡くなった時引き取ってくれた母方の叔母両親達に送っている仕送りの事を。
「嫁が困ってるのなら旦那が助けるのは当然のことだろ。可愛いうさぎとの美味い食事の為なら、旦那の務めはきっちりやる。困っている事があれば何でも言ってくれ。叶えてやる」
もしかして……私の事、調べた?
じゃあ……他の事も知ってるって事……?
それなのに、こんな事を言ってくる。めちゃくちゃすぎや、しませんか……?
そして、スッと懐から出した紙は……婚姻届。けれど、強張ってしまった。一番に見えた部分が……両親の名前を書く部分だったから。すぐに、その紙から目を背けてしまった。
「……可愛いのが良かったか? 無難にこれにしたんだが……花柄とか、うさぎ柄とかにした方が良かったか?」
「……」
……いや、そういう問題じゃない。というか、彼の書く欄はもう記入済みなのね……指輪まで用意してもう準備万端って?
「……あぁ、両親の欄か。確か養子縁組だったか。その件に関しては俺は別に気にしていないぞ」
……待って、今、なんて言った……?
実の両親の事は、別に気にしていないですって……?
『えー、るかちゃんちってお父さんとお母さんいないのー?』
『こら、そんなこと言わないの! ごめんね瑠香ちゃん』
ふと脳裏を横切った、幼い頃の記憶。恥ずかしかった、寂しかった。そんな幼少期が、浮かんできた。
だから、だろうか。
つい、カッとなってしまった。思いっきり、彼の右頬を叩いてしまった。
「あっ……」
「……」
つい、やってしまった。



