メシ友婚のはずなのに、溺愛されてるのですが!?


 思考停止してしまい、寝起きの頭で何とか再起動しようとしていたら……何故か押し戻され、彼は玄関に入りつつドアを閉めてしまった。

 ここは10畳間のアパートで、キッチン付きの廊下の先にある玄関は、段差が結構ある。だから、目の前に入ってしまった彼から近くなり下がれなくなってしまった。うわっ!?

 足がもつれ後ろに倒れそうになったけれど、前にいた彼が腕を掴んでくれてゆっくりと座らされてしまった。はぁ、何で入ってくるのよ……

 彼は、その場にしゃがみこみ、私に顔の高さを合わせてきたと思ったら……とんでもない事を言い出した。


「一目惚れした」

「……は?」


 今、この人なんて言った……?

 一目惚れ? 何こんなところで寝言言ってるの、この人。


「人前で腹鳴らして恥ずかしがるところは本当に可愛かった。それに、俺が頼んでやった料理を嬉しそうに食べていた姿は愛らしいうさぎのようだったな」

「……何言ってるんです?」

「こんなに可愛いうさぎと365日三食メシを一緒に食べられるなら、俺は幸せだと思うんだが?」


 ……メシ? 今、メシって言った……?


「あ、あの、メシ……?」

「そう、メシ。昨日含め今までの見合いは23回。その中で一番楽しい食事が出来たのはお前だけだった。ここまで満足出来たのは初めてだ。だから、お前に決めた」

「え……」

「急で悪いんだが結婚してくれないか?」


 結婚……結婚……結婚っ!?

 どんなプロポーズよこれは!! 昨日の今日でプロポーズですって!? 冗談にもほどがあるわっ!!

 結婚の意味、もしかして分かってない……? だって、昨日の今日でしょ? 一回食事しただけだし、まだ出会って一日も経ってないし。


「1年でいい。1年で離婚してくれていいから、結婚してくれ」

「……は?」


 い、一年……? ど、どうして期限付き……?


「次は何が食いたい? A5ランクの黒毛和牛がいいか? それとも、鴨肉? ふぐでもいいな。あ、ウナギでも食いに行くか!」


 ……なんて高級食材を口から出してるの、この金持ちは。黒毛和牛? 鴨肉? ふぐ? しかもウナギまで? 貧乏の私には一生拝めるものじゃないですけど。

 まぁ、食べたいか食べたくないか、と言えば食べてみたい。……決して食い意地を張っているわけではないけれど。