この恋の終わらせ方を、私たちはまだ知らない。

いつも通り、残業をして疲れ切った体で、ホームの六人掛け席のうちの端っこの一つに腰掛ける。

あと二分くらいで最終電車がやってくる頃だろう。


ふと、ジャケットのポケットに入れていたスマホが震えメッセージの受信を知らせてきた。

そこには、残業をする羽目になった、会社でミスをした後輩からの謝罪文がつらつらと書き綴られていた。

ふぅと小さくため息をつきながら、“大丈夫だよ、誰にだってミスをすることはあるんだから”とできた先輩としての回答を送り、再びスマホをポケットにしまう。

私だって新人の頃も今も、ミスをすることはたくさんあった。

だから責める権利もないし、怒りが湧いてくることもないけど、それでも疲れるものは疲れる。

焦りまくっている後輩と一緒に焦っていては余計不安を煽るだけだから、私は冷静なフリをしていないといけない。

無事、うまく対処することができたからよかったものの、もし取り返しのつかないことになっていたらと思うとゾッとする。

三年も働いているから、そこそこ重役を任せてもらえることも増えてきて、後輩の面倒を見ることも多くなってきた。

その度に私は、私じゃない誰かになっていくような気がしていた。


「…あ」


やってきた終電に乗ると、端っこの席にいつもの男の人が座っていた。

いつも同じ時間、同じ場所にいる彼。

今日は終電に乗っているけど、いつもは私が帰る夕方頃に同じ端っこの席に彼は座っている。

この三年間毎日見ている顔だから、自然と覚えてしまったのだ。

そんな彼の正面ではなく、私の定位置であるななめ前の端っこに座る。

終電だからか、乗客の姿は私たちしかなく電車の走る音がやけに大きく聞こえた。

この際だからと、チラリと持っている小説に視線を落としている彼を盗み見る。