ハニートラップ


日曜日。冬が到来して、快晴なのに今日は一段と冷え込んだ。

鏡の前で何度もファッションショーをしながら、出かける支度を整える。
メイクもいつもよりほんの少しは軽くして、スカートの裾を弾ませ家を出た。

「おー、珠桜。お前も出かけんの?」

隣の家から同じタイミングで俊平が出てきた。

「あー、うん。ちょっと駅まで。」


高峰くんに会うために。は、伏せといた。


「じゃ、一緒だな!」

何を言うでもなく歩調が揃って並んで歩く。
白い息を浮かべながら、コートのポケットに手を入れる動作まで揃った。

「俊平はデート?千歳ちゃんと。」

「まぁな。
ってかお前!やっぱり久哉と付き合ってんじゃねーか!」

あっ、と思い出したように俊平が大きい声を出す。
私はそれを曖昧に首を傾けて誤魔化した。

「千歳がさー、アイツはヤバいって言うんだよ。
噂に引き摺られてるだけだと思うんだけど。」

内心ドキリとする。
口から出た笑いは乾いていた。

「でもさ、アイツ見た目は怖いけど話せばまともじゃん?
それに珠桜は大体間違えないから、気のせいだろって言っといた。」

「……なにそれ、信用しすぎでしょ。私のこと。」

曇りなく笑う俊平に、私も表面上は笑っておく。
心の中では素直に頷けず、ポケットの中で拳を握った。

「体育祭の日もなんか言われたっぽいけど……
あれはシット?ってヤツだったんだな、きっと。」

俊平はうんうんと1人で納得している。
“なんか言われた”の内容より、その話題から逃れたい気持ちが勝って無意識に固く結んでいた口を開いた。

「っていうか俊平!
いつの間に“千歳”って呼ぶようになったのー?」

冷やかすようにニヤついて、ドン、と肩で俊平を押す。
すると俊平はわかりやすく動揺して、直前の話題を忘れてくれた。

「いーだろ別に!珠桜には関係ねー。」

「あっ照れてる!照れてるねぇ、俊平くん?」

改札口で別れるまで、久しぶりに肩の力を抜いて笑った気がした。