高峰くんは怒っている。
目は鋭く細まって、眉はこれ以上なく寄っている。
私の腕を掴む手も、肌に食い込んで少し痛い。
「ちゃんと答えて。」
――でも、なんで。
苦しそうなんだろう?
「……出る、けど、
……それが何か?」
なぜか気まずくなって目を逸らす。
高峰くんの口からギリ、と歯噛みする音。
それと同時に、腕から離れた手が顔の真横のドアを打った。
「出ないで、珠桜。」
手をついた衝撃で古いドアが軋む。
冷たいのに、熱が燻る高峰くんの目に心が揺れる。
高峰くんの感情はわからない、けど。
些細なことで怒って、私を支配しようとする。
――玩具を取られた子供みたい。
それが1番しっくりくる答えだった。
「……高峰くんに命令されることじゃない。」
辿り着いた結論が悲しい。
だから、強がって反発した。
「付き合ってるわけでもないのに。」
視線が揺れないように、真っ直ぐ高峰くんを見る。
ずっと鋭かった高峰くんの目が大きくなった。
瞬間、口元だけが妖しく吊り上がる。
「じゃあ――
俺と付き合えば、珠桜はやめてくれるわけ?」
――心臓がキーンと冷えた。
強く保っていた視点が震えて、サッと血の気が引いていく。
(……これじゃ、本当に“物”扱いだ。)
胸の奥が、ぎゅっと潰れたみたいに息が詰まる。
その言葉は、こんな形では欲しくなかった。
「そういう意味で言ったんじゃない。」
自分でも驚くほど落ち着いた声が出た。
真上にいる高峰くんは、まだ笑っている。
なのに吐き出す息は、少し震えている気がした。
「……へぇ?好きにすれば?」
張り詰めていた高峰くんの空気が緩む。
綺麗な顔がふい、と横を向いて、私から離れていく。
「――あ、」
なぜか焦って、手が高峰くんに向かって伸びかけるけど指が動くだけに留まる。
迷っているうちに、高峰くんは反対側のドアから出ていってしまった。
生温かい室温が戻る。
ズルズルとその場にへたり込んで、長い溜息を吐いた。
「……わかんないよ、高峰くん。」
冷たく見えるのに、苦しそうな顔が頭から離れない。
言葉にできない感情を残して、もうすぐ波乱の体育祭が始まる。



