ハニートラップ


――いや、
変なのはもしかして、私?

ドクンドクンと切ない鼓動が、指先にまで波及する。


『女遊びすごいとか……』

不意に、マキの言葉が頭を過ぎる。


(そうだ、そういえばそうだった。)


甘い仕草も、慣れた手つきも。
きっと、高峰くんにとっては特別でもなんでもない。


(……毎日のように会ってたから、そんなことすっかり忘れてた。)


ズン、と気持ちが沈んだ時、顎にかかる手が私の顔を上げさせた。

「珠桜。」

甘い声で私を呼んだ唇が、そっと近づく。

当たり前のように緩く脱力して、いつもの様に受け入れる
――はずだったのに。

ズキンと胸が痛んで、咄嗟に顔を背けてしまった。


気まずい沈黙。
高峰くんの顔が唖然として固まる。

居心地が悪くてまごついた指先で、スカートの裾をギュッと握った。


「――ごめん!
もう行かなくちゃ!俊平に英語の課題貸す約束してて――……」

苦しすぎる言い訳。
でもそうするしかなかった。

「じゃあね、高峰くん。
また――…今度ね。」

傷ついた顔を見られたくなくて、さっさと背を向けて走り出す。


バタバタと廊下を走る音が遠ざかり、高峰くんは1人きり。

……やっと手に入ると思ったのに。

触れることの叶わなかった唇が、わなわなと震えている。

「――――は?」

その顔に、表情はなかった。