ハニートラップ


「はい、高峰くん。」

アイスを半分に割って、片方を高峰くんに差し出す。

「半分こしよ!」

そう言って笑うと、高峰くんの目が大きく見開いた。


「……っふ、ははッ」

数秒の間を置いて、高峰くんが噴き出した。
何が可笑しいのか、くつくつと肩を振るわせてしばらくずっと笑っている。

「え、何?私何か変なこと言った?」

アイスを受け取ってもらえないまま、困惑して高峰くんが落ち着くのを待つ。

ひとしきり笑った高峰くんが、深い息を吐いてこっちを向いた。


「“半分こ”って……幼稚園児かよ。」

目の前の光景に心臓が止まる。

高峰くんが、“素”で笑ってる。

眉尻を下げて、目を細くして。
口もふにゃりと伸びていた。

(……可愛い。)

止まった心臓がキュンと疼く。
この甘酸っぱいときめきを、私は経験したことがある。

差し出したアイスの切り口が、溶け出してぽたりと落ちる。
それに気づかないくらい、私の心が温度を変えた。


「ありがとー。珠桜ちゃん。」

溶けかけのアイスを、高峰くんは嬉しそうに受け取る。
触れそうで触れなかった指先が、ちょっと残念だと思った。


「うわ、あっま。珠桜って甘いもの好きなの?」

高峰くんは甘ったるさに辟易しながら、あげたアイスを平らげる。

「……うん、」

トクントクンと、胸の鼓動が大きくなる。

「好き。」

事故みたいな恋の音に、高峰くんは気付かない。