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昼休み。
教室がまた賑やかになる。
いつも通りにミナの席に集まって、いつも通りにお弁当を広げようとした、時だった。
「呼水珠桜、――いる?」
圧のある中低音が、教室の空気を全部吸い取った。
(……誰?)
コンセントが抜けたみたいにしん、と静まり返る教室。
窓を打つ大粒の雨の音だけが聞こえる。
クラスメイト達は声の主を確認してから、一斉に私の方を向く。
その顔には、哀れみや驚きが浮かんでいる。
唯一、隣に座っていたミナだけが赤面して声を抑えながら、私の腕を興奮気味に叩いた。
床を打つ上履きの音が響くほどの沈黙の中を、私はゆっくりと進んでいく。
私を呼んだ見知らぬ男の前に立つと、その人はゆっくりと唇に弧を描いた。



