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「……だだいま。」
家に着くと、顔を見られない様にまっすぐに階段を上がる。
自室の電気を点けて鞄を放り投げると、窓ガラスを叩くノック音がした。
ドキッと小さく胸が鳴る。
涙の理由を思い出した。
一方的な罪悪感で、窓を開ける手がぎこちない。
カーテンを閉めたまま錠を開けて、一息で向こう側に空間を繋げた。
「おう、……お疲れ。」
気まずそうな声。家と家の間に流れる空気が温い。
窓の向こうに、もう無邪気な男の子はいなかった。
ストンと感情が落ちて、体温が下がっていく感覚。
思ったより痛くはない。
覚悟していたせいなのか。それとも……
「あのさ。俺、」
「上手くいった?」
ほわほわと浮ついた空気を早く断ち切りたくて、俊平の言葉を遮る。
俊平はたちまち頬を染めて、顔を顰めながら頷く。
「――そっか。」
やっぱりほんのちょっとは、悲しい。
「よかったね。」
でも、ちゃんと笑えた。
「サンキュー……
ってか珠桜、なんか目腫れてない?」
「失礼なー。そんなことないよ。」
くるりと俊平に背を向ける。
俊平はこんな時でも、私が否定すればあっさり引く。
「今日宿題多いの。だから閉めるね。
……おめでと。俊平。」
頭に疑問符を残したまま、何も言ってこない幼馴染に苦笑して、窓を閉める。
小さい頃の綺麗な記憶を、胸の中にそっと閉じ込めた。



