ハニートラップ


人の気配のしない路地。

街灯の下でぽつんと佇む高峰くんは、なんだか浮世離れして見えた。


「寝癖。――もしかして、起こしちゃった?」


クス、と甘く緩む顔。
伸びてくる手がもう優しい。


ぐしゃぐしゃに絡んだ髪を、長い指がそっと梳いて解いていく。



……私、最低だなぁ。

心がじゅわっと甘く疼いて、その手を受け入れそうになる。


「こんな時間に何の用?」


自分に嫌気が差す前に、大きく一歩距離を取る。

今日の高峰くんは、それを追いかけてはこない。



「珠桜が泣いてると思って。」


甘い言葉が夜空に溶ける。

ダメだってわかってるのに、開けた距離を自分から詰めてしまった。

ジャリ、とアスファルトを踏む音が耳の奥に余韻を残す。


「――ねぇ、」

一歩を踏み終わると同時に、腰を抱き竦められて捕まった。


艶かしい薄い唇が、ゆっくりと息を吸う。
数秒の間が、苦しい。




「珠桜ちゃんが俊平の幼馴染できてた理由、教えてあげよっか。」