ハニートラップ


初めて高峰くんと会ったあの日から、もう数週間が経っていた。


週に何回か、高峰くんの気まぐれで空き教室に呼び出される。

友達にテキトーな言い訳をしないといけないのも心苦しいし、もう最悪だ。



「ねぇ、呼水さんの好きな食べ物教えてよ。」

「……リンゴ。」

「絶対嘘でしょ。」


今日は放課後に呼び出された。
俊平と帰ろうとしていたのに。


広がる会話なんてない。

幼稚園児にするみたいな一問一答で、私の情報をただ吸い取られるだけ。


夏の日差しもここには少ししか届かなくて、ただ室内が茹っていくだけだった。


「ちゃんと言わないと、こうだよ?」

つん、と毛先を引かれて、唇に柔らかい感触が落ちてくる。

ぶつかる衝撃に一瞬目を閉じるけど、すぐまた開けて無感情に高峰くんの顔が離れていくのを待った。


汗のせいか、少ししっとりした感触。
会う度に繰り返されて、もう怒りも悔しさも湧いてこなくなった。


「なんですぐ、キスするの。」

ほんの冗談みたいに。玩具みたいに。

片側だけ夏の光を受けて白く輝く高峰くんの顔が、すごく柔らかく微笑んだ。


「早く堕ちてきてほしいから。」


その妖艶さに、無意識にごくりと喉が鳴る。
夏服の白いワイシャツが、血の通う肌をほんのりと透かしている。


「……なに?それ。」

ふい、と顔を背けると頬に日が差して、熱い。
手と手の位置は近いのに、必要以上には触れてこない。


(――あー…だからか。)


たまに気を許しそうになるのは。


「!」

ポケットの中のスマホが震え出す。
ずっと振動しているそれを取り出すと、ディスプレイに映る俊平の名前に胸がそわっと色めいた。