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――……
女の匂いが充満する狭いアパートで、押し殺した甘い声が漏れる。
何の感慨もないけど、この征服感が苛立ちを誤魔化してはくれた。
「久哉ぁっ……!」
感極まった女が俺の首元に手を伸ばし、濡れた唇を寄せてくる。
ぞわりと立ち上る嫌悪感に、容赦無く肩を突き飛ばした。
「――キスすんの嫌いって、ずっと前から言ってるだろ。」
冷めた目で睨みつけると、たちまち女が怯えて焦った顔になる。
「ごめんなさい」と縋る手を振り払って、乱れた自分の衣服を整えた。
「お前ウザい。もう連絡してくんな。」
泣き啜る声を一切無視して、湿っぽい部屋からさっさと出た。
古いアパートの階段を降りていく金属音と、温い夜風が纏わりつく不快感を消していく。
自分で触れることすら惜しい、珠桜と触れ合った唇で新鮮な空気を取り込む。
柔らかくて温かい感触を逃さない様に、そっと掌を握った。



