「珠桜ー!数学の教科書貸して!」
1年3組の教室の後ろ側のドアから、ハツラツとした声が私を呼ぶ。
ざわざわとした教室内。
その声が一際大きく聞こえて、密かに胸が高鳴った。
「もう、また?
前日にちゃんと確認しなっていつも言ってるじゃん。」
言いながら、その手にはしっかり数学の教科書。
……だってこれは、私の“特権”だから。
「サンキュー!やっぱ持つべきはしっかり者の幼馴染だな!」
ニカッと音がしそうなくらいの全力笑顔。
私の肩をバシバシ叩いた振動で赤い猫っ毛が弾む、無邪気な仕草にキュンとする。
好みに合わせて明るく染めた、長い髪で顔を隠す。
熱が漏れそうな視線を一瞬下げて、戻す頃に呆れた笑顔を作った。
――幼馴染の俊平は、
私の片想いの相手でもある。



