ハニートラップ


校内で珠桜を見つけた時は嬉しかった。


背伸びしたみたいな少し明るいの長い髪と、気持ち程度に崩した制服。

幼く見える面立ちは変わらず、メイクが馴染んでなくて笑える。



すぐにでも声をかけたかったのに、そうしなかったのには理由がある。

――珠桜の隣に、邪魔な奴がいたから。


「俊平!帰ろ!」


他クラスなのも周りの目も気にせず、珠桜は教室のドア口から明るい笑顔を覗かせる。

クラスメイト達も初日は驚いていたけど、
日を追うごとに“あの夫婦は”なんて温く受け入れる様になっていた。


当の本人達は、“ただの幼馴染だ”と否定する。



けれど、たまに伏せる珠桜の目が、含む様に密かに笑う口元が、“そうじゃない”と突きつけてくる。

誰もが一度は場違いな俺を見つけるのに、珠桜だけは1度もこっちを見たことがないのもその証明だ。



珠桜の幼馴染は、変な奴だった。
他人に対して壁がない、怖いもの知らず。

「久哉って、イケメンだよなぁ。」

俺を盗み見る奴ばかりの中で、コイツだけは違った。

友達が多いだけの、単純バカ。
こんなのが、珠桜の視線を奪う奴?


『ヤバイって!ほっとけよ、珠桜!』

――“あの時”はビビって関わろうとしなかった癖に。
いい奴ぶるな、と心の中で舌打ちした。

値踏みする様に俊平に何度か絡んでも、ただの明るくて気のいい奴止まり。

それなのに、珠桜の心は強く根深く捕まっている。
無駄に年季の入った幼馴染の、時の重さってやつ?



『ちょっと誘拐されてくれない?』


自分が女ウケする見た目してる自覚はあるし。
そんなもの、忘れられない衝撃を与えればすぐに覆ると思ったのに。


『俊平……』


揺らしたはずの珠桜の唇から溢れた、ブレない心からの呟きを思い出す。

目の前にいたのは俺なのに、その目は俺を見てなくてムカついた。



「なんで落ちてこないんだよ。」

ムシャクシャして髪を掻くと、ポケットのスマホが低く振動した。

“久しぶりに会いたいな”

一方通行の「会いたい」が連なるメッセージ。

面倒臭い。

だけど、今日はそれに乗ってやることにした。