ハニートラップ


意識を絡め取られたみたいに頭が真っ白になる。

――なのに胸を占めるのは、大好きな人の太陽みたいな笑顔だった。


「俊平……」

あと一ミリの距離で、無意識に名前がぽろりと溢れる。

悲しくて、苦くて、痛くて。
表情の作り方がわからなくなった。

高峰くんの動きが止まる。
鈍く光る眼光が、面白くなさそうに痙攣した。


「あー、飽きた。やめやめ。」

パッと上体を起こして、気だるそうに窓際に肘をついて寄り掛かる。
どうしたのかと見上げた顔は、無機質な無表情だった。

「今日はもう帰っていーよ。
よかったね、呼水サン。」

もう私に見向きもしない。
わけがわからず頭の中が疑問符だらけになるけど、解放されるならと深く追求はしないことにした。

…急に気が変わったりしないよね?

疑って何度も高峰くんに振り返りながら教室を出る。
その間も高峰くんがこっちを見ることはなかった。


独りきりになった教室で、久哉は天を仰ぐ。
窓ガラス越しの空は、ムカつつくらいの青空だ。

燻る嫉妬を、深く長い息にして吐き出す。

「あ――――。しんど。」

重く落ちる呟きは、誰の耳にも届かなかった。