「――かけっこで負けたから。」
ぽつり、呟くと高峰くんの目が大きく見開らく。
目の前を駆け抜けていく猫っ毛の小さな後ろ頭を、今でも鮮明に思い出す。
泣き虫で、私の方が背が高くて、何をやっても私の方が上手だったのに。
あの日、俊平が私の中で男の子になった。
「くだらないでしょ?」
バカにされる前に、自分から自虐気味に笑いかける。
初めて見た高峰くんのぽかんとした顔に、“そりゃそうだ”と息が漏れた。
不意に、顔同士の距離が詰まる。
――どうして私は、いつまでも学習しないのか。
唇が重なって、時間が止まってしまった。
高峰くんは動かない。
何故か私も動かない。
多分数秒だけのことだったのだろう。
でも、長い時間が経った気がした。
ゆっくりと時間をかけて、高峰くんの唇が離れていく。
「――いいじゃん。」
目と鼻の先の距離で、高峰くんは綺麗に笑う。
「おままごとみたいで、可愛くて。」
心臓がドキッと甘く脈を打つ。
そしてまた、端正な顔が近づいてくる。



