2階の窓は2人だけの秘密の通路。
向こうの窓辺で、よく知った大好きな笑顔が私を見ている。
「珠桜!」
トクントクンと甘酸っぱい鼓動が胸を満たす。
気持ちがはやって、何か言われる前に私が先に口を開いた。
「――どうしたの?俊平。」
自然と笑顔が込み上げてくる。
ジクジクと膿んだ胸の痛みが、ほんの少しだけ和らいだ。
「いや、……今日の“アレ”ってさ――……」
探り探りの気まずい顔に、好奇の色が滲んでる。
勝手な罪悪感とガッカリが、治りかけた胸をちくんと刺した。
「寒いから、そっち行っていい?」
――なんて、言い訳。
俊平の返事も待たずに窓枠にかけた足が、ポンと向こう側へ飛び込んだ。
着地した先は窓際に置かれたベッドの上。
長年使っているそれは、私の体重を勢いよく受けてギッ、と壊れそうに軋む。
よく知った清涼感のあるシャンプーの匂いと、ずっと変わらない片桐家の洗剤の匂い。
親しんだ日常が、今日だけは安心をくれる特別なもののよう。
「相変わらず豪快かよ!いつか落ちるぞ。」
「俊平だってよくやってるじゃん。」
「俺は運動神経いいからいーんだよ!」
俊平が私の額を人差し指で強めに小突く。
年頃の男女がベッドの上に2人並んでいると言うのに、危うい雰囲気は全くない。
私の胸の中だけが、キュンキュンと疼いているだけだ。
子どもの戯れ合いのように笑い声が続いた後、俊平が思い出したように口を開いた。
「そうだ!で、今日のアレ!」
避けきれず戻ってきた話題に、ピクリと眉が動く。
この空間にまでアイツは割り込んでくるのか、と苛立って拳を強く握った。
「付き合ってんだよな?珠桜と久哉。」



