ハニートラップ


「…………。」



飲まれたら、負ける。


だからせめてもの抵抗で、思いっきり顔を背けた。


「珠桜?」

強がって、無視をする。


「珠ー桜ちゃん?」

……無視。


頑なに通りの向こうを見る目が、あり得ないほど泳ぐ。

高峰久哉がどう出るか見えないのは怖いけど――
これは私の最低限の防衛ラインだ。

何かを悟ったのか、高峰久哉の目がジト、と座る。
壁についている両手がピクリと動いて、子どものように唇がへの字になった。


「……呼水サン。」

「――何でしょう?“高峰くん”。」

チラリと視線だけ高峰くんに戻してやる。
拗ねた彼の唇から、つまらなそうな溜め息が溢れた。


「せめて敬語、なんとかなりません?
俺達同級生ですけど。」

「……そうは見えませんので。」


勝った…!
開放感に心臓がドキドキと高鳴る。


堪えたいのに、勝手に目は見開いて、噛んだ口元がにやりと吊り上がる。

高峰くんの色素の薄い黒目の真ん中に、安堵に緩む私の顔が映る。

刹那、グッと顔同士の距離を詰めてきて、私の顎を捕まえた。