透明な薄い壁1枚では、ひしひしと伝わる怒りオーラを遮れない。
傘の持ち手を握り締める手に力が入った。
一瞬の間。
傘のビニール地を、高峰久哉が平手で殴り飛ばす。
グン、とすごい力で振り切られ、取手から手が離れてしまった。
パァンと乾いた音と一緒に、飛んでいくビニール傘。
それが水溜まりの中に落ちていくより早く、高峰久哉が私の間合いに入ってきた。
「あんなんで防げると思った?」
逃げようと咄嗟に体を引いた時にはもう遅い。
スパイシーで甘い香水の匂いが鼻を掠めて、私はまた家の外壁と高峰久哉に挟まれる。
「甘いよ、珠桜。」
雨の雫が散らばるブロンド髪が、傾きかけた陽光を受けてキラキラと光る。
私を捕まえて影になる顔は恐ろしいほど美しい。
逃げ出したいのに、足が地面に張り付いたみたいに動かなくなってまた呼吸が浅くなった。



