ハニートラップ


伏せられた長いまつ毛と香水の匂いに気づいた時には、もうキスされている。


「……っ、」



甘さを教えるように、更に唇を押し付けてくる。

触れただけの柔らかさにビリビリと脳が痺れて、息をするのを忘れていた。


(な、に……これ……!)


瞬間、ぞわりと全身が逆立つ。


「っ、やめて!」


息が戻るのと同時に、反射で思い切り男を突き飛ばした。


ドサ、と鈍い音を立てて、男がその場で腰を打つ。

血が昇ったり引いたりする矛盾した感覚で、浅い呼吸を繰り返しながらそれを見下ろす。


私を見上げてニヤリと笑う流し目に、恐怖か高揚かわからない鼓動が心臓を鷲掴みにした。


「アンタ、誰!」

感情がぐちゃぐちゃで、キツく眉根を寄せて自分を保つ。
生々しく残る感触を手の甲で強く拭った。